インタビューシリーズ 1:稲葉亮二さん(元青年海外協力隊員・新規就農者)

2019年9月30日
農村の巡回指導(ウガンダにて)
農村の巡回指導(ウガンダにて)

稲葉亮二さんは、2012-2014年に、青年海外協力隊としてウガンダに派遣され、ササカワ・アフリカ財団(SAA)ウガンダ事務所が支援する農村で活動をしていました。帰国後は、愛知県で新規就農し、様々なオーガニック野菜の生産に取り組んでいます。

2019年8月28日に横浜で開催された、TICAD 7公式サイドイベントのSAA主催シンポジウムで行われたパネルディスカッションに登壇してくださいました。日本の農業セクターを代表する若者として、アフリカから来日した農業専門家や政府関係者、研究者、若者たちと意見交換を行い、農村の若者の雇用問題に農業がどのように貢献できるか、日本の技術がどのようにアフリカの農業のイノベーションに貢献できるか、自身の体験をお話しくださいました。

Q. SAAとは出会いはどのようなものですか?

青年海外協力隊(JOCV)としてウガンダに派遣されることになったとき、僕はSAAウガンダ事務所に配属されることになりました。といっても、実際に活動するのは、首都にある事務所ではなく、SAAウガンダが支援を行っている農村でした。現地に行くとすぐに、米の生産に強い関心を持っているグループを紹介してもらいました。彼らの多くは、最初、僕が農業機械や設備を提供してくれるものと期待していていましたが、それはしない、伝えたところ、関心を失うグループもいました。僕は、日本の稲作の知見と、ウガンダの研究機関によって導入された技術の組み合わせで現場に即した指導ができると考えていました。

派遣されてすぐ、僕はウガンダの研究機関でネリカ米の栽培と収穫後処理に関する研修を受けました。学んだ技術の中には、実用的でないものも多くありました。例えば、研究所では、稲作のための最適な水位は2〜3cmであると学びましたが、現場でその水位を維持することは不可能だと思いました。そこで、私は、現地の農家と共に、植え付けから収穫までの生産プロセス全体に最適な水位を導き出すための実験を行いました。

最終的に、実験に参加してくれたグループは3つありました。各グループは約10人で構成されていましたが、持続的な発展のためには、僕がいなくなった後も学び合える環境が必要だと思い、グループの代表を一人選出し、グループの人はその人とその田んぼから学ぶ、という関わり方にしました。私の滞在期間は限られていたので、それが最も効率の良い方法だと思いました。

ウガンダでは様々な民族の言葉が沢山あるので、公用語は英語でした。ですが稲作に関しては、洗練された英語は不要でした。実際に実演して、主要な数字を伝えれば十分なコミュニケーションをとることができました。

Q. SAAのアプローチを間近に見て、どんな印象を受けましたか?

青年海外協力隊のほとんどは、発展途上国の地方政府に任地を割り当てられるので、私がSAAというNGOに派遣されたのはとても珍しいことでした。地方政府の配属先との最大の違いは、NGOが、そしてSAAの活動が柔軟でスピーディーであることです。何かをやることが決まれば、すぐにそれを実行に移すことができます。それは開発プロジェクトについての私のアイデアに本当に合っていました。

中でも私が特に感銘を受けたのは2点です。 1つ目は、SAAは農家の自主性を大事にします。そのため、活動に参加するグループは、皆、非常に熱心なメンバーで構成されています。一方、地方自治体が農家グループを作る場合はアプローチが画一的で、参加したいかどうかを農家に尋ねないことすらあります。当たり前のことですが、関心の薄い人たちと一緒に活動をするのは困難です。SAAは、地元の農家の情熱に基づいて組織化を行うので、そうした農家グループと一緒に仕事をするのは本当にやりやすかったです。

2つ目の側面は、SAAが地元の農家を継続的にサポートしていることです。SAAスタッフは、頻繁に農家を訪問し、彼らの農作物がどのように育成しているか進捗を確認します。農家が状況を報告するとき、SAAスタッフは様々な質問を投げかけ、新しい視点を与えます。こうしたサポートは、農業事業の成功に大きな違いを生むと思います。

Q. ウガンダでSAAと仕事をしてみて、得た教訓は何ですか?

ウガンダでは、様々な経験し、多くのことに気付かされました。例えば、

・人々が生活を向上させる上で、必要な情報にアクセスできるかどうかということが、本当に重要であること。

・日本では、「8時に出勤」というように決められた時間がありますが、ウガンダの田舎での暮らしは、日が昇る時間に朝ごはん、涼しい時間に働く、暑い日中は友人と雑談、家族との時間を必ず持つ、日が暮れる時間に夕飯の準備、眠くなったら家族みんなで眠る、というように、時計の時間に左右されない生活が営まれていると感じたこと。

・ウガンダの環境問題、森林と環境の破壊を間近に目撃したこと。

・生きるために必ずしも電気とガスが必要なわけではないこと。

最後の点についてですが、水は人間の生活に欠かすことができません。ウガンダでは、生活水を得るために片道1キロ歩く必要がありました。

こうした経験や学びを通じ、帰国後、私は、日本でも環境、そして水源を保護し、自分らしいライフスタイルを守る必要があることに気付きました。仕事だけで人生を過ごすのではなく、食べ物を生産し、環境を保護して人生を過ごしたいと思っています。

食糧生産について、まずは、田んぼを広げることを考えています。生きるのに十分な米と野菜はありますが、社会の一員である以上、ある程度の現金を稼ぐ必要があります。これはウガンダの人々がしていることでもあります。彼らは家族のために米と野菜を生産し、余剰分を市場に売っています。僕も、その余剰分に付加価値をつけることで現金収入につなげていて、彼らの生き方を参考に日本に適合できる形を模索しています。

環境保護についていうと、ウガンダでは、燃料資源のために多くの森林が伐採されていました。彼らにとっては、植林も燃料確保のための一環であることを学びました。帰国後、僕は水源を守り豊かにする活動を進めています。具体的には、針葉樹を間伐して広葉樹を植え、森がより多くの水を貯められるようにすることを目指しています。広葉樹の作る腐葉土は水を貯蔵するために本当に重要なので、今後たくさんの広葉樹を植えていくつもりです。

日本では、農作地を荒らす有害な動物の数が本当に増えています。これらには、イノシシ、シカ、サルが含まれます。その理由の一つは、生態系が破壊されているからです。日本では家を建てるために多くの針葉樹が植林されましたが、結局海外から安い木材が輸入されることになったので、植えた針葉樹が使われませんでした。その結果、針葉樹の数は非常に多くなり、生態系に悪影響を及ぼしています。

キツネは獣害のイノシシの子供のような小動物を捕食してくれます。キツネの狩場が減ったことで、狐の数は減っています。私は今、キツネのためにより良い環境を取り戻そうとしています。それが草原です。針葉樹を切り開いて草原を作ろうとしています。人間ができることはそこまでだと思っています。人は自然を完全にコントロールできません。ウガンダで学んだように、人間が自然に適応し、生活する、それを目指しています。

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“農家と共に歩んで ―ササカワ・アフリカ財団の農業支援の軌跡―”(日本語翻訳版)

SAAの創設から現在までの歩みを記したヒストリーブック(翻訳版)です。

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Voices from the Field Special Edition 2022

「現地からの声」の記事を特別編集版としてまとめました。