インタビューシリーズ3: クリス・ダズウェル奨学金が人生を変えるまで~

2019年12月20日

ササカワ・アフリカ農業普及教育基金(SAFE)事業は、大きく二つの目標を掲げています。一つは、アフリカの大学と農業学生を農業開発プロセスに統合させる事、二つ目は小規模農家の需要を満たすために、農業及び農村開発アドバイザリーサービスプロバイダーの知識や技術を強化する事です。SAFEは11カ国29の大学と提携しており、創業以来約7,000人の農業普及員がこのプログラムの恩恵を受けています。

今回私たちは、横浜で開催されたTICAD 7のサイドイベントで登壇したナイジェリアで農業活動に従事する若者、エリザベス・オガーにインタビューを行い、彼女のSAFEでの経験や今後の方向性について話を聞きました。

エリザベスはナイジェリア、イロリン大学のSAFE卒業生です。2014年から2017年にかけて同大学で農業普及の学位取得に励み、その間、農業分野での教育を通じた女性の権利向上のための研究を行いました。彼女は現在同大学で農業普及、農村開発の修士号取得に励んでいます。

彼女は8月28日にSAAが横浜で主催した、TICAD 7のサイドイベントの際パネリストとして登壇し、他の農家や農業の専門家、起業家や様々な分野の専門家らと議論を交わしました。

SAFEプログラムによって彼女は農業開発に没頭し、生まれ育った農業地域に”恩返し”をする事ができたと言います。SAFEプログラムに参加する前は、農業ビジネスを行う会社でボランティアとして働いており、農村の女性や若者向けの育成プログラムに携わったり、様々な会議に参加したりする事で農村開発におけるキャリアを模索していました。

「私は教育や開発に対し強い熱意がありました。まず農業技術について、その後に農業普及・管理に関わる専門学校の学位を取得しました。そして、2つの大学から入学を認められ、そのうちの一つであるイロリン大学のSAFEプログラムに3年目から入学するに至りました。」

教育に係る費用は膨大だったと彼女は振り返ります。「私は穀物等の農作物で得た収益や僅かばかりの貯蓄を切り崩して教育費用を支払っていました。」しかし、大学3年目には、クリストファー・ダズウェル奨学金(※後述)を受ける事が認められた事で、研究や教材、備品に係る費用を賄う事ができました。こうした経験から、彼女はSAAが、自分のような金銭的に困難にある人材を育成するプラットフォーム作りに貢献している団体であると高い信頼を寄せていました。

エリザベスはSAFEのカリキュラムが、普及教育へのアプローチとして非常に“現代的”なものだったと話しています。「SAFEプログラムは従来の教育と比べ、経験を持った社会人をターゲットにした成人教育を行っていました。そのため、SAFEの学生は各々の経験を持ち寄り活発な議論を行う事ができ、非常に興味深い経験をする事ができました。SAFEプログラムの期間中、私たちは農村エリアの人々と触れ合う機会が多かったため、卒業後は彼らに恩返しをするために農家に戻りたいです」と語っています。

彼女は、プログラムの中でも特に参加型、起業家、事業計画やリーダーシップ育成、更には農業普及コミュニケーション等に関わる授業が有益だったと言います。例えば、農業バリューチェンに関する授業では、バリューチェン沿いの様々な活動や事業の構築・強化方法に関する理解を深める事ができたようです。

「私たちのクラスは比較的若い学生で構成されており、SAFEのプログラムなくしては得られなかったような学びの機会を受ける事ができました。中には60歳、70歳代の生徒もおり、私は彼らをおじいちゃん、おばあちゃんと呼んでいました。彼らは非常に豊富な人生経験や実践的な経験を有していたので、私が経験したボランティア活動に関する知識を超えて多くの事を学ぶ事ができたのは彼らのおかげだと思います。」

「SAFEプログラムの一環で、生徒は実践型の、「事業改善プロジェクト(SEP)」を受講する必要がありました。SEPは生徒が実践を通して学びを深める事で理論と現実のギャップを埋める事を目標としており、生徒の能力強化だけでなく生徒と農村コミュニティー間の知識・技術移転の為のツールにもなりました。SEPの間、私は農村地域で農作物への付加価値創出に関し指導を行う機会があり、幼児の食事を賄うためのプランテン(バナナの一種)の活用方法について地域の人々にアドバイスを行いました。プランテン、サツマイモ、アボカド、人参、マンゴーを混ぜ合わせることで、非常に栄養価の高い幼児食を作ることができたのです。これはSAFEの学生として、農村部の栄養問題といった課題に対する解決方法を思いついた瞬間でした。」

エリザベスはSAAが主催したTICAD7のサイドイベントに参加したことをきっかけに、ナイジェリア外のさまざまな研究機関から招待を受け、若者の権利向上に関する議論に参加することになっています。現在、彼女は自己資金で女性向けの初等教育のための奨学金を提供しており、農業や起業に関する情熱や知識をより多くの人々に共有することに尽力しています。「SAAが私の教育を支援してくれたからこそ、今度は私が若い女性達を支援したいと思います」と話してくれました。

エリザベスはインタビューの中で、「将来は自分で選択し、今からでも切り開いていくことができる」と、若者にメッセージを送りました。「もし将来に不安があったとしても、時間を止める事はできません。もし私たちが世の中をよくしたいと思ったなら、必ず社会に影響力を与えることができるはずです。私は常々、”精いっぱい生きて、やり残したことなく人生を終えたい”と考えています」

*Christopher Dowswell奨学金について

クリス・ダズウェル氏は、SAAの設立に奔走し、SAAとSAFEの会長を30年以上渡って務めたノーマン・ボーローグ博士の右腕のような存在でした。クリスはSAAとSAFEを通じた小規模農家の支援、特に農業普及員への支援という目的の達成のために休みなく働き、2011年12月に死去するその直前までアフリカ農業の発展に尽力しました。

彼は生前、アフリカの農村における女性の権利向上を強く主張していていました。そのため、彼の遺族から彼名義で寄付の申し出があった際、SAAは女性の農業普及員を支援する奨学金制度を立ち上げるに至りました。同奨学金は農業普及員として女性の活躍の機会を多く作る事を目標に掲げています。

SAA 出版物のご紹介

E-ニュースレター
"Walking with the Farmer"

SAAの活動動向をレポートしたE-ニュースレターを隔月で発行しています。

E-ニュースレターの日本語翻訳版(PDF)はE-ライブラリーでご覧いただけます。

SAAメールニュース

E-ニュースレター”Walking with the Farmer”(英語版)とイベント情報をメールで配信しています。是非ご登録ください。

登録はこちら

ヒストリーブック

“農家と共に歩んで ―ササカワ・アフリカ財団の農業支援の軌跡―”(日本語翻訳版)

SAAの創設から現在までの歩みを記したヒストリーブック(翻訳版)です。

サクセスストーリー
Voices from the Field Special Edition 2022

「現地からの声」の記事を特別編集版としてまとめました。