インタビューシリーズ2: 農業起業家、リンディウェ・シバンダ氏へのインタビュー

2019年12月15日

リンディウェ・シバンダ博士は、ササカワ・アフリカ財団(SAA)を「アフリカの若者を巻き込みながら独自のサービスを提供する組織」と評価しています。彼女は、横浜で開催されたTICAD 7会期中、SAAが主催したシンポジウムでパネリストとして登壇し、「アフリカの農業における若者と起業家」というテーマで議論を行いました。そんな彼女がどのようにして起業家になり、また起業家になった今、機会をどのように活用しているのかについてインタビューを行いました。

リンデウェ博士は、「私の経験が若者に良いインスピレーションを与え、彼らの模範となることを祈ってます」と言って、話を始めてくれました。彼女はジンバブエのブラワヨで生まれ育ち、10歳の頃から農業に触れていました。毎年3回ある学校の長期休暇には必ず、祖母が住むロウアーグエル村に訪れ、1ヘクタール程の祖母の畑の手伝いをして過ごしました。ロウアーグエル村の人々にとって農業は誇り高い仕事でした。成人した祖母の6人の子供達だけでなく、30人にも及ぶ孫の空腹を満たせたのは、この畑のおかげだと言います。

祖母が最も大事にしていたことは、畑を家族の食事、栄養、薬の供給源にすることでした。畑は白トウモロコシ、赤ソルガムや雑穀といった、様々な穀物で虹色に彩られていました。そうすることで、雨季に大した雨が降らず、トウモロコシの収量が下がったとしても、その他のキビ、ソルガムを少量ながらも食べることで、お腹を満たすことができました。根菜類の畑にはジャガイモとサツマイモ、野菜畑には玉ねぎ、トマト、キャベツが育てられていました。また、農場の端には12匹のヤギ、乳牛1頭、更には卵や肉用に鶏が飼育されていました。

「30人の孫全員が、年齢に応じて、植え付けから栽培、収穫、貯蔵、加工、そして食事の準備、皿洗いといった役割を与えられました。作業は日の出から日没までに及び、私たちは日々、平均13-15時間、働きました。農業は私にとって生きる活力であり、源でした。私はその後、畜産の博士号を取得するのですが、これは農業に対する熱い情熱を、祖母が植え付けてくれたからだと思います。」

博士課程卒業後、リンディウェ博士は大学教員として働き始めましたが、起業家精神や、祖母の小規模農業に対するインスピレーションが消え去る事はありませんでした。その後彼女は民間への仕事へシフトする事を志し、持続可能で革新的かつ国際競争力のある中小企業の育成を支持するUNCTAD(国際連合貿易開発会議)の国連プログラムを利用し、特別研究員として農業起業家になるための勉強を始めました。このプログラムでの経験と独自のアイディアを最大限活用し、彼女はリンズ農業サービスという自らの会社を立ち上げました。リンズ農業サービスは現在設立23周年を迎え、農業政策に関するコンサルティング事業、ジンバブエの牛やヤギ等の畜産、食肉処理サービス、さらには肉の小売事業まで多角的に事業を展開しています。

「気候変動対応型農業に関するグローバルアライアンス」の共同議長や、世界野菜センターの理事といった現在の地位、さらにはこれまで経てきたAGRA(アフリカ緑の革命同盟)の副会長、FANRPAN (食品・農業・天然資源政策分析ネットワーク)のCEO、ILRI(国際家畜研究所)会長といったこれまでの輝かしい経歴は、彼女の企業家精神によって成し遂げられたものといえます。

シンポジウムの主題である「若者の農業への参入」をサポートするために、彼女は3つの基盤が必要であると主張しています。「第一に必要なのは生産性の向上です。一人当たりの生産高を改善させる必要があり、これは成長政策から見落とされがちな、若い女性に対する教育機会の提供と並行して行われることで、相乗効果が望めると思います。第二に、ヒト、知識、市場、サービス、アイディア、情報等のつながりを互いに高めると同時に、地方の若者が経済活動に参画する機会を創出する事です。第三に、現地の人々が自らの人生を自分で決定することを可能にする機関の存在です。若者たちを制約するような社会規範を取り除き、彼らがより創造的で社交的な人材になるよう、環境を整える必要があります。農村の若者は自らの利益のために自身で決断を下す力を身に着けるべきです。特に、地方の若者は都市部の若者より構造変化の流れから除外される傾向にあるため、決断力というのは地方の若者を社会の変革のプロセスに取り入れる際に重要となってきます。」

日本人による支援はアフリカで好意的に受け止められているが、これは一つには特に青年海外協力隊などのボランティアの青年たちが農村で働く際に、現地の文化やリーダーシップに敬意を払っているからだと思います。「また、日本には、ICTの比較優位性を利用し、社会構造を一変させるような農業のデジタル化を通して若者の農業参入を促進できる可能性をもっています。干ばつに強い種子や、ドローンのようなデジタルツール、人工知能といった技術は特に重要な役割を担っており、アフリカの多くの若者を惹きつける事ができるでしょう。」と彼女は話します。

彼女は全てのアフリカ諸国が、スマート農業の実現に向けた改革を行うべきだと考えています。「第一に、これは人的資源や財務要件といった面でコストがかかってしまう国にとって、フラグシッププログラムとなるべきです。第二に、現在アフリカの僅か4%しか、灌漑施設や水にアクセスできないことを考慮すると、スマート農業に向けた取り組みは気候変動への耐久力を高めるものとなります。第三に、従来の方法では情報へのアクセスがうまく機能せず、間違ったデータの使用が市場の開放を妨げていたことからも、ICT分野における近代化は必須です。第四に、インパクト評価を可能にする説明責任、モニタリングの仕組み様々なアクターを調整するメカニズムを徹底すべきです。そして最後に、すべてのバリューチェーンにおけるプレイヤーが、収益性の高いビジネスチャンスを創出する必要があります。これらは若者含めた雇用機会を創出するためにも重要であるといえます。」

リンデウェ博士は、現在数万人の農家に支援を行っているSAAの事業が、新技術、気候変動対応型農業や、栄養に配慮した農業の実現に機能していると確信しています。

一方、SAAの事業の一つである、笹川アフリカ農業普及教育基金(SAFE)プログラムは、26のアフリカ諸国の大学と実践的な農業普及カリキュラムを開発し、過去25年以上にわたり7000人近い農業普及員を卒業生として輩出してきました。リンデウェ博士は、SAAがこの実績をもとに、農業発展のためのビジネススクールを設立し、アフリカ大学間のネットワークを活用することで、多くのアフリカの若者に影響を与える事ができると話します。

最後に彼女は「SAAはキャパシティービルディングに定評があり、これは若者の農業への参入を促し、起業家精神を養うための足がかりとなるでしょう」と語りました。

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