インタビューシリーズ4: 農業省普及局長イエネネッシュ・エグ氏へのインタビュー

2019年12月20日

イェネネッシュ・エグ氏は現在、エチオピア連邦農業省の普及局長として、様々な全国規模のプロジェクトに携わっていますが、農業普及分野で草の根レベルの豊富な経験を持っています。彼女は大学で農村開発・農業普及を専攻したのち、現在は農業普及部門のマネジメントやコーディネーションといった分野で重要な役割を果たしています。

8月28日に横浜で開催したTICAD7では、SAA主催のシンポジウムのパネリストとして登壇し、アフリカと日本における農業、起業家、若者の農業参加といったテーマで農家の若者や農業の専門家らと議論を行いました。

Q. ご自身について教えて下さい

私は2005年にエチオピアのハラマヤ大学の笹川アフリカ農業普及教育基金(SAFE)プログラムを卒業しました。入学前はエチオピア南部諸民族州のシゲゾ地区で草の根レベルの普及員として現場で働いていました。

当時はエンセーテ(ニセバナナと呼ばれるエチオピア固有の澱粉質の作物)や根菜、コーヒー豆、トウモロコシといった作物の栽培や、堆肥の作り方、灌漑といった土地の管理における研修やアドバイスを行い、地域の農家支援を行っていました。私の担当していた村は都市部からはるか遠く離れた場所に位置しており、公共交通機関は週に一度しか運行しておらず、また電話等の通信インフラも限られていました。

私の職場はドゥラメ町から60キロメートル離れたところに位置しており、交通機関が未発達だった為、トラックを主な通勤手段として使用していました。道中トラックが故障し5キロ以上の道を歩く事もありましたし、遠隔地で研修を行う際には12~13キロ程歩き同日中に自宅に帰宅するといった生活も送っていました。

Q. どのようにSAFEプログラムを知ったのですか?

SAFEプログラムが発表されたとき、私は即座に応募する事を決めました。その後の試験に運良く合格し、ハラマヤ大学で農業普及の学士号を取得する事ができました。周囲の人々はこうした状況を「なんてラッキーなの!!」と祝福してくれました。繰り返しとなりますが、私が働いていたエリアは非常に交通の便が不便だった為、こうした機会をとりわけ女性が活用する事は非常に稀な事だったのです。まさに天からの贈り物でした。

SAFEで勉強する機会を得たとき、私は非常に幸せでしたし、私の家族も本当に喜んでくれました。残念な事に当時の私の職場は、必ずしもこうした私の選択を歓迎はしてくれず、上司は当初、私が勉学を理由に休職することに、許可を出すことを渋りました。しかし、説得の末、最終的に上司から理解を得て、給料を支給されながら勉強に励む事ができたのです。授業料、食費、住居費はすべてSAFEプログラムが賄ってくれました。

Q. SAFEプログラムに対し期待していた事は何ですか?

SAFE入学以前の私は、専門学校で農業に関する基本的な知識は身に着けていました。私は当時25歳で、よりレベルの高い教育を受ける事を望んでいましたが、金銭的理由が、大きな障壁となっていました。しかしSAFEプログラムはこの障壁を取り除いてくれ、授業料、食費、住居費、更には研究費といった費用をすべて負担してくれました。

SAFEプログラムの一環で私が行った「事業改善プロジェクト(SEP)」は、後にオロミア地域で非常に有名なプロジェクトになり、オロミア州の大臣が実際に視察に訪れる程の注目を浴びました。私は実践研究として、キャッサバの生産、加工、収穫後処理や調理法を主なテーマとしてプロジェクトを進め、地域の12名の農家(女性8名、男性4名)に実践してもらいました。この事業の導入前は、農村にはゆでる以外にキャッサバの調理法がありませんでした。しかし私は農家や専門家、教師、NGOの代表を含む多くの参加者を募りフィールドツアーを企画して、収穫後処理の方法を実演したり、考案したキャッサバを使ったインジェラ、パン、クッキー、シチューのソース等のレシピを披露したりすることで、多くの参加者から有益なフィードバックを得る事ができました。

Q. 卒業後はどのような道を歩んでいるのでしょうか?

2年半に及ぶ座学と8か月のSEPプログラムを卒業した後、以前の職場に戻り、郡の農業局でエンセーテや根菜類の専門家として働き始めました。3か月後には県の農業局へ異動し、事業企画部のリーダーに昇格しました。

県の農業局で一年程働いた後、州の農業局にジェンダー専門家として抜擢され、4年程働きました。その後、スウェーデン国際開発協力庁(SIDA)の奨学金の給付を受け、大学院へ進学する機会を得る事ができました。

大学院修了後は農業普及・コミュニケーション専門家として連邦農業省に2年間勤め、その後1年間の農業普及局長代理としての実績が買われ、正式に現在の農業普及局長のポストを得るに至りました。

私自身、自分がこうしたキャリアを歩む事になるとは想像もしていませんでした。私は女性で、電話やインターネットからも縁遠いところで働いていたからです。しかし、SAFEのおかげで素晴らしい機会を得ることができました。

Q. SAFEのプログラムで習得した知識が、現在の農業普及のディレクターとしての業務にどのように活かされていると感じますか?

開発業界における多くの関係者は、女性の権利向上について訴えますが、目に見える具体的な成果を上げることは非常に稀です。一方、SAFEプログラムは、学ぶ機会を実際に提供し、学位の取得を通じてより具体的で目に見える実績を積み上げていく事を可能にしてくれます。私は今、農業普及局長として、SAFEの例を参考に、よりインパクトの大きいアプローチとして拡大できないか模索しています。女性に活躍の機会を提供する事は、どんなに小さい機会であれ、非常に重要です。私の場合、自らチャンスを積極的に手に掴みにいったことで、現在の人生を得ることができた経験から、今後は他の人々のために、機会を提供する場を増やすことに尽力したいと思っています。

Q. 将来の目標や夢を教えて下さい。

将来のビジョンとして、自分の教育レベルとキャリアそれぞれを高めたいという二つの柱があります。特に、奨学金を得て博士号を取得し、政府内で更に上の地位で活躍したいという気持ちがあります。そして、特に女性に対し、社会に大きなインパクトをもたらしたいと考えています。

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