開催報告:FAO Science and Innovation Forum公式サイドイベント「イノベーションを支える多元的な農業普及システム ~世界的危機に立ち向かうアフリカの農家のレジリエンス強化のための事例と教訓~」

ニュース
2022年11月4日

2022年10月14日、ササカワ・アフリカ財団(SAA)は、国際食糧政策研究所(IFPRI)及びアフリカの農業普及サービスのためのフォーラム(AFAAS)と共同で、FAO Science and Innovation Forumの公式サイドイベント “Multidimensional agricultural extension to support innovation: Experiences and lessons on building African farmers’ resilience to global crises” (邦題:イノベーションを支える多元的な農業普及システム ~世界的危機に立ち向かうアフリカの農家のレジリエンス強化のための事例と教訓~)をオンライン開催いたしました。

冒頭、SAAの北中真人理事長が開会の挨拶を行い、SAAは長年、「改良技術とイノベーション」と「小規模農家に対する普及活動」をアフリカで農業変革を実現する上での両輪と捉え活動してきたことを述べました。そして、気候変動や肥料価格の高騰といった現在の世界的な危機に立ち向かうには、多元的な農業普及システムの構築とパートナーシップが不可欠であると本フォーラムの開催意義を強調しました。

基調講演では、国際連合食糧農業機関(FAO)のイノベーションオフィス シニア農業オフィサーのSelvaraju Ramasamy氏が、農業普及の果たす可能性について言及し、生産性や収益性のみに着目した狭義の普及から脱却し、あらゆる危機に対応した360度型の革新的なシステムが必要であると述べました。また、FAOのイニシアティブを紹介するとともに、「誰一人取り残さない」ために、農業普及システムの体系的な改革、法整備が必要であると訴えました。

基調講演を行うSelvaraju Ramasamy氏(国際連合食糧農業機関(FAO)イノベーションオフィス シニア農業オフィサー)

次に、IFPRIシニア・リサーチフェローのKristin Davis氏が、アフリカにおける農業普及の現状と展望について発表しました。同氏は、農業普及のデジタル化が進む一方で、デジタルツールを効果的に活用するためのスキルが不足している点を指摘し、普及員は作物や農学の知識だけでなく、農家と円滑なコミュニケーションを取り効果的に支援するための「ソフト」スキルを習得する必要があると述べました。そしてアフリカで効果的な農業変革を加速するためには、農業普及システムのアップグレードが必要であると強調しました。

農業普及の現状について講演するKristin Davis氏(IFPRIシニア・リサーチフェロー)

SAAのMel Oluoch戦略パートナーシップ事務所長は、SAAの戦略に基づく多元的な農業普及アプローチの全体像を紹介しました。アフリカの31大学と連携する人材育成プログラム(SAFE)、若者・女性・障がい者を含む雇用創出プラットフォーム、デジタル変革による農業普及スケールアップなどの取り組みを説明しました。

その後、現場からの報告として、4名の登壇者が各団体の具体的な事例と教訓を共有しました。Gambo Abdulhamid(SAAナイジェリア副事務所長)は、世界的な肥料価格高騰を背景に、ナイジェリアの小規模農家を対象とした、尿素の費用対効果を高める深層施肥技術の普及事例を紹介しました。戸上崇氏(ソフトバンク株式会社​ CPS技術企画部 担当部長 e-kakashi事業責任者)は、農業を科学的に支援するサービス「e-kakashi」の導入事例を紹介。「e-kakashi」から収集したデータを基にコメの最適な収穫時期を判断したり、ジャガイモに最適量の灌漑を施し成功した事例を共有しました。Sakile Kudita氏(HarvestPlus ジンバブエ リサーチフェロー&カントリーマネージャー)は、アフリカ大陸における生物学的栄養強化作物(Biofortified Crop)の普及経験ついて共有。世界における「隠れた飢餓」の現状を示し、生物学的栄養強化作物の導入の障壁を取り除くために、普及が重要な役割を果たすことを強調しました。Godfrey Mayambala氏(農業組合ZAABTA責任者)は、多元的な農業普及モデルの成功事例としてウガンダの農業組合ZAABTAを紹介。自身の農業組合が主体となり、デジタル技術の活用とともに女性や若者を巻き込み、バリューチェーンに沿った様々なサービスを2万人以上の農家に提供していると述べました。

「e-kakashi」の導入事例を紹介する戸上崇氏(ソフトバンク株式会社​ CPS技術企画部 担当部長 e-kakashi事業責任者)
HarvestPlusの普及経験を共有するSakile Kudita氏(HarvestPlus ジンバブエ リサーチフェロー&カントリーマネージャー)

その後、登壇者とモデレーターによる活発な質疑応答が行われ、最後に、AFAASのSilim Nahdy事務局長が、登壇者の素晴らしいプレゼンテーションに感謝を表しました。また、本フォーラムの有意義な意見交換を今後も継続していくことが重要であるとし、共通の目標に向かい、パートナーと連携をさらに強めていきたいと述べました。

 

FAO Science and Innovation Forum
SAA-IFPRI-AFAAS FAO Science and Innovation Forum 公式サイドイベント

講演者のプレゼンテーション資料一式
イベント開催中に寄せられたQ&Aボックスの質問&返答集

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