【報告書】SAAエチオピア事務所長がインド訪問。環境再生型農業の商業化の現状を視察しました

ニュース
2023年4月10日

2022年3月5日、食料と土地利用の変革に取り組む連合体Food and Land Use Coalition: FOLU(世界資源研究所(World Resources Institute: WRI)が事務局を務める)が中心となり、「エチオピアにおける持続可能な環境再生型農業の商業化を目的とした行動連合」が結成されました。今般、WRI/FOLUエチオピア事務局の支援により、インド・テランガーナ州の州都ハイデラバードへ1週間の視察(2023年3月26日~4月2日)が企画され、ササカワ・アフリカ財団(SAA)のフェンタフン・メンギスツ(エチオピア事務所長)とメレセ・リーヘ(環境再生型農業事業コーディネーター)が、同行動連合のメンバー組織であるエチオピア農業省、農業変革機構(Agricultural Transformation Institute: ATI)、エチオピア国立農業研究所(Ethiopian Institute of Agriculture: EIAR)、FOLUの代表11名とともにインドを訪問しました。

本視察は、持続可能な環境再生型農業におけるインドの経験を学び、特にエチオピア政府のイニシアティブ「農業商業化クラスター(ACC)」と「農家生産クラスター(FPC)」で応用できる知見/技術を収集することを目的とし、Vikarabad地区とSanga Reddy地区への現場視察(2日間)・ワークショップ(1日間)、全体総括(1日間)の3部構成で実施されました。

本視察訪問の詳細については、こちらから報告書(英語)をダウンロードください。

本視察からの学び(一部抜粋):

  • インドの「緑の革命」と「白い革命」の実現に見られるように、農業の変革には政府のコミットメントが不可欠である。
  • インドの農業政策は、生産者と消費者の双方を保護・支援するものである。農産物の価格保証制度を効果的に実施するには、食料支援プログラムを通じた購入と消費者への分配が必要である。
  • 天水農業と灌漑農業の双方をバランスよく発展させる必要がある。政府は大規模な灌漑を重視するのではなく、雨水利用を含む小規模な灌漑を優先するのが望ましい。
  • 農家の所得向上のみにフォーカスせず、医療や教育へのアクセスを含む福祉全体の向上を目指すことが重要である。
  • 自然(環境再生型)農法を成功に導くカギは、政府の支援、知識の共有、農家間の普及である。
  • 自然農法を実用化するには8〜10年の時間を要する。
  • 自然農法の原理では、微生物に適した環境さえ構築されれば、露(つゆ)などのわずかな水分量で植物が育つと言われている。堆肥、尿、ヤシ糖などのバイオスティミュラント(生物刺激剤)は、良好な土壌構築に利用できる。
  • 自然/環境再生型農法を成功させるには、新しいバリューチェーンや市場の開拓とともに、生産者と消費者のマインドセットの変革が必要である。
  • 農薬の影響を軽減するには、農薬販売業者が販売状況を報告する仕組みづくりが肝要である。販売量よりサービスに報いるフランチャイズモデルを選択することが重要である。
  • 農場で作物を多様化するには、「農場から食卓まで(Farm to Fork)」のアプローチが重要であり、カスタム・ハイアリング(custom hiring)(機械作業の請け負いシステム)などの的を絞った農業支援と、インセンティブの縮小が必要である。
  • 「持続可能な農業のための国家ミッション」を掲げるインド政府は、「自然農業のための国家ミッション」を設立し、地域における自然農業の認証メカニズムを開発すると報じられている。一方で政府は、特定の作物の種子や肥料に対して助成を行い、政府のニーズに合致する農家を支援するなど、自然/環境再生/持続可能な農業とは相反する政策を進めており、環境目標と食料安全保障の実現との間に対立があることがうかがええる。総じて、他国と同様、インドにおける環境再生型農業も発展途上であり、大規模農業の転換というよりは、パイロットプロジェクトに重点を置いた取り組みであると結論付けることができる。

将来への提案(一部抜粋):

  • SAAは、パーマカルチャーの原則や、牛糞堆肥・尿素ベースのバイオスティミュラントの使用など、自然農法の試験的な導入を検討する必要がある。そのためには、特に、今回訪問する機会がなかったオディシャ州の天水農業ネットワーク「Revitalizing Rain-fed Agriculture Network」の経験を学ぶ必要がありそうだ。
  • パーマカルチャー/パーマガーデンの普及においては、多年生作物に着目する必要がある。
  • オディシャ州では、さまざまな種類のキビ(シコクビエ、小キビ、ソルガム、ナラ、アワ、コドキビ)に着目した多様化イニシアティブが成功しており、気候変動に強い作物の普及としてSAAも検討の余地がある。
  • 環境再生型農業への移行を促すために、農家へのインセンティブ制度を構築するとともに、同農法により生産された作物の公正な価格を保証することが必要であろう。
  • 環境再生型農業の成果は、試験圃場やホスト農家の圃場で測定するのではなく、再生農地、農地/景観の多様化、農家への普及/導入などを基準に測ることを検討する。
  • 予算の確保が伴うが、SAAスタッフ自身が環境再生型農業にかかるさまざまな視点を学べるよう訪問視察の機会を設けることを推薦する。

報告書(英語)“Toward more Sustainable and Regenerative Agricultural Commercialization in Ethiopia"

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