【農家のストーリー】ナイジェリアで進む環境再生型農業~気候変動対応型稲作でユスフさんの収量向上を実現~

ナイジェリア
2026年3月25日
水稲栽培で得た収益で購入した揚水ポンプを紹介するユスフ・イジェさん
水稲栽培で得た収益で購入した揚水ポンプを紹介するユスフ・イジェさん

従来型農業による課題

ナイジェリア・ナサラワ州ドマ地方行政区アラギェ地域に暮らすコメ農家、ユスフ・イジェ・エコムさん(43歳)は、地域に変化をもたらす存在となっています。研修への参加、自らの努力、そして適切な支援を通じて、ユスフさんは農業生産だけでなく、生計そのものを大きく改善しました。

アラギェは、ササカワ・アフリカ財団(SAA)ナイジェリア事務所が2022年から実施している「アフリカの気候変動に対応するための科学的根拠(エビデンス)に基づく環境再生型農業プロジェクト」の対象地域です。本事業は、日本政府がアフリカ開発銀行を通じて設置・支援する「開発政策・人材育成基金(PHRDG)」より資金提供しており、気候変動に対応した農業技術の導入を通じて、生産性とレジリエンスの向上を目指しています。

事業に参加する以前、ユスフさんは従来型のコメ栽培を行っていました。1.5haの農地に150kgもの種子をばら播きしていましたが、期待したような収穫は得られませんでした。収穫量は年間18〜20袋(約2トン)程度にとどまり、家族を養い、借金を返済するには十分ではありませんでした。

「以前は“Bade Kaka”という地域の農業融資制度を利用して種子を借りていました」とユスフさんは振り返ります。

「収穫後に返済すると、家族のために残るコメはほとんどありませんでした。生活は本当に厳しかったです。」

環境再生型農業の導入と収量倍増

転機となったのは、SAAによる実践型研修への参加でした。ユスフさんは、科学的根拠に基づく環境再生型農業について学び、育苗、適切な株間での移植、少量種子による効率的な栽培方法など、改良されたコメ生産技術を習得しました。

これまで150kg使用していた種子量を、現在は50kgまで削減していますが、収量は大幅に向上しました。

「同じ1.5haの農地から、今では50〜60袋(約5〜6トン)を収穫できるようになりました」とユスフさんは語ります。

「2023年だけでも、乾季に55袋、雨季に60袋を収穫し、年間合計110袋を生産しました。」

さらに大きな成果の一つが、「バイオ炭(Biochar)」の製造・活用技術を学んだことでした。バイオ炭は土壌肥沃度や保水性を高める天然の土壌改良資材であり、この環境再生型農業技術によって、乾燥期でも作物の健全な生育が可能となりました。

所得向上と生活改善

SAAによる支援以前、ユスフさんにとって乾季農業は現実的な選択肢ではありませんでした。乾季には仕事がなく、家で時間を持て余し、家庭内でもストレスが増えていたといいます。

しかし、現在は状況が大きく変わりました。

「乾季に農業ができるようになり大きく変わりました。今は忙しく、収入も倍増しました。家庭の雰囲気も良くなり、妻も喜んでいます」と笑顔で話します。

コメ栽培による収入増加を受け、ユスフさんは新たな投資も始めました。ナサラワ州の都市部ケフィに100フィート四方の土地(約930㎡)を62万ナイラ(約419米ドル)で購入したほか、自宅改修のための建築資材も購入しています。

さらに、灌漑用ポンプを2台購入し、他農家へ1日3,000ナイラ(約2米ドル)で貸し出すことで、新たな収入源も確保しています。

「1台目のレンタル収入を使って、2台目を4万5,000ナイラ(約29米ドル)で購入しました」とユスフさんは話します。

気候変動対応型品種への転換

ユスフさんは現在、種子生産にも取り組んでいます。従来の「FARO 44」から、より高収量で品質にも優れた気候変動対応型品種「FARO 66」へ切り替えました。

その成果は周囲の農家にも広がり、種子需要は急速に高まっています。

「農家が私の圃場を見に来て、成果を確認し、その場で種子を購入していきます」とユスフさんは話します。

「種子は1容器あたり3万ナイラ(約21米ドル)で販売しています。その収入で借金を返済し、土地を購入しました。今後は教育環境や治安の良いケフィへ家族を移す計画です。」

コメ栽培で得た収益を活用して自宅の増築を進めるユスフ・イジェさん

地域に広がる変化

ユスフさんの取り組みは、アラギェ地域の多くの農家に影響を与えています。これまで従来型農業を続けていた周辺農家も、育苗や移植、SAAが推進する適正農業規範(GAPs)など、改良技術の導入を始めています。

パートナーシップと技術革新が生み出す成果

「ササカワは、単に農業技術を教えてくれただけではありません。私の人生そのものを変えてくれました」とユスフさんは語ります。

「今では雨季も乾季も農業をしています。収入は増え、子どもたちは十分な食事を取ることができ、妻も安心して眠れるようになりました。毎日ササカワに感謝しています。」

本事業は、ナイジェリアにおける持続可能で気候変動に強い農業の推進を目的としたPHRDGの一環として実施されています。

SAA、SoftBank Corp、IITA(国際熱帯農業研究所)/TAAT(Technologies for African Agricultural Transformation)が、ナサラワ州農業開発計画(ADP)を通じて連携し、科学的分析やAI技術を活用しながら、環境再生型農業の効果検証を進めています。

本事業では、5,000人の直接受益者と10万人の間接受益者への支援を目指すとともに、生産性40〜60%向上、農家生計30%改善を目標としています。

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