【前編】SAA新理事長 鈴木周一氏 インタビュー:国際ビジネスの現場で培った40年と、今につながる“利他の精神”

2025年4月、ササカワ・アフリカ財団(SAA)は新たな理事長に鈴木周一氏を迎えました。
鈴木氏は総合商社である住友商事にて、鋼管・エネルギー分野を中心に長年国際ビジネスの第一線で活躍。中東、東南アジア、ヨーロッパなど海外各地での駐在経験を通じて、グローバルな視点から持続可能な成長と多国間パートナーシップの構築に尽力してきました。後年は資源分野において、エネルギーの安定供給と産業の発展にも携わりました。2023年に第一線を退いた後、次なる挑戦の舞台として選んだのが、アフリカ農業支援に取り組むSAAです。
約40年にわたり、民間の第一線で活躍してきた鈴木氏が、なぜ今SAAの理事長して新たな一歩を踏み出したのか。そこには、これまで培ってきた経験と信念が、SAAの現場主義と深く響き合う確かな理由がありました。今回のインタビューでは、就任の背景と想い、そしてアフリカの未来に向けた展望について、じっくりと語っていただきました。
国際ビジネスの現場で培った40年と、今につながる“利他の精神”
鈴木理事長が歩んできた国際ビジネスの第一線、そのキャリアは、「信用を重んじ、利他の心を持って着実に取り組む」という信念に裏打ちされたものでした。
― 鈴木理事長が携わってこられた仕事を教えてください。
1982年に総合商社に入社して以来、鉄鋼(特に鋼管やパイプライン等の石油関連資材)やエネルギーといった、社会基盤を支える領域に長年従事してきました。鉄とエネルギー、いずれも人々の暮らしと経済を根底から支える重要な産業です。
私が所属していた会社は、道義と信用を重んじる伝統ある企業グループの一員で、そこでは二つの事業精神が何よりも大切にされていました。一つは、「信用を重んじ、確実を旨とする」こと。もう一つが、「自利利他・公私一如」という考え方です。
― 自利利他の精神とは?
自分の利益だけを追求するのではなく、相手の利益、さらには社会全体の利益を見据える姿勢です。個人や組織の営利活動であっても、「公」と「私」を切り分けるのではなく、調和させる、そして利を共にすることを徹底的に叩き込まれました。日本財団の笹川会長もブログで「利他」という言葉を使っておられますが、その精神と通じるものがあると感じています。
また、新たに事業を始める際も、「信用」と「確実性」が大前提。目先の利益だけではなく、社会に役立つ仕事を地に足を着けてしっかりやろうということです。
―入社先は企業グループ内では後発的な存在だったとのことですが
もともとその企業グループでは、商取引は「浮利に通じる」として長らく手を出さなかった歴史があるんです。実際に、社内の営業要旨には「浮利に趨り、軽進すべからず(目先の利益に飛びつかず、慎重であれ)」という一節もあるほどで、その重みを強く意識してきました。
この「後発」で「商事」という立ち位置だったからこそ、私たちは、グループ理念の体現に一層真剣に取り組んできました。
― 「信用」と「利他」の積み重ね
実際、日々の業務の中で、「信用」「信頼」を基盤にするよう徹底されてきました。そして事業を行う際には、「これは社会にとって意味のある事業であるか」を強く意識してきました。
2000年代に入り、SDGsやマテリアリティといった概念が社会に広がっていきましたが、私たちにとってはそれが新しい考え方というよりも、むしろ現在の延長線上にあるものとして自然に受け入れることができました。

― “修羅場”を通じて確信した、誠実さと継続の重要性
国際ビジネスの現場では、予期せぬ困難に直面することが何度もあります。私自身も、いわゆる“修羅場”を経験してきましたが、特に印象深い出来事を三つご紹介したいと思います。
まずは1989年から1990年にかけての中東での駐在経験です。サダム・フセイン政権によるクウェート侵攻が起こり、私はその渦中にバグダッドで業務をしていました。空港が閉鎖され、出国もできない中で、夜行バスでヨルダンに避難。最終的には2週間かけて日本に帰国しましたが、仲間の中には半年以上現地に足止めされた者もいました。
二つ目は、エネルギー資源関連の大型案件において、経済制裁の影響により既に製造、納品済みの製品の代金が支払われない危機に直面したことです。金額にして百億円規模。最終的には、日本政府の支援と金融機関の協力を得て、1~2年かけて粘り強く対応し、無事回収にこぎつけることができました。
三つ目は、東欧地域におけるエネルギーインフラの建設プロジェクトです。ある国際的な情勢変化により、完成目前だったパイプラインの受け入れが拒否され、契約の白紙撤回を通告されたのです。案件規模は数百億円にも及びましたが、取引先や関係各国との誠実な交渉を重ね、代替ルートでの活用という形で最終的に解決し、代金回収に至りました。
こうした経験を通じて学んだのは、どれほど大きなリスクに直面しても、本質的な問題を見極め、誠実に対応を続ければ、必ず道は開けるということです。物事は必ずしも順調には進みませんが、信頼と継続、そして冷静な判断があれば成し遂げることができる。私はそれを、現場での体験を通じて強く実感してきました。
【中編】SAA新理事長 鈴木周一氏 インタビュー:国際ビジネスの第一線からササカワ・アフリカ財団(SAA)へ
【後編】SAA新理事長 鈴木周一氏 インタビュー:信頼が導く未来 ― 人とともに歩むアフリカ農業支援のこれから
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"Walking with the Farmer"
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