【後編】SAA新理事長 鈴木周一氏 インタビュー:信頼が導く未来 ― 人とともに歩むアフリカ農業支援のこれから

信頼が導く未来 ― 人とともに歩むアフリカ農業支援のこれから
グローバルなビジネスマネジメントを長年にわたり担ってきた鈴木理事長。民間出身のリーダーは、今、ササカワ・アフリカ財団(SAA)という非営利組織をどのように見つめ、どのような未来を描いているのでしょうか。
「物理的な距離があるときこそ、人と人とのつながりがより重要になる」──。そう語る鈴木理事長が重視するのは、強いリーダーシップでも派手な改革でもなく、「信頼に根ざした組織づくり」です。
― SAAは、各国の職員がオンラインで連携しながら日々の業務を進めています。物理的な距離を超えて、職員やパートナーと効果的に連携するために、最も大切なこととは何でしょうか?
これまで、私はアメリカやアジア、中東などで数多くの事業会社を立ち上げ、数千人規模の組織をマネジメントしてきました。そのなかで痛感したのは、組織運営において最も大切なのは、決裁書類を処理することではなく、「人と正面から向き合うこと」だということです。
信頼関係を築くうえで私が常に意識しているのは、4つのキーワードです。「信頼」「信用」「誠実」、そして「謙虚さ」。この4つがあれば、どんなに多様なバックグラウンドの人たちとでも、深いコミュニケーションがとれますし、たとえ意見が異なっても、互いを尊重しながら共通の目的に向かって歩むことができると考えています。
今は多様性の時代ですから、議論が一致することの方がむしろ稀です。だからこそ、深く丁寧にコミュニケーションを重ねることが重要になってきます。その土台となるのが、やはりこの4つの価値観なのです。
― 組織の「内側」にも目を向けていく必要性
SAAのビジョンやミッションを改めて拝見し、特に、アフリカの農家の方々への深い共感と支援の姿勢に強く感銘を受けました。理念と行動がしっかりと結びついており、その一貫性にSAAの力強さを感じています。
ただ、一点だけ付け加えるとすれば、やや「従業員目線」の視点が弱いのではないかという印象を受けました。SAAには東京、在外事務所に合計約200名のスタッフがいますが、彼ら一人ひとりの存在こそが、現場の活動を支える礎です。SAAという組織が職員にとってどのような価値を提供し、どのような成長を共に目指しているのか──その視点をもう少し明確にしていくことが、これからの組織作りに大切ではないかと考えています。働く一人ひとりが「この組織の一員で良かった」と実感できるような設計と、つながりを大切にした風土づくりは、SAAの持続的な成長にとって不可欠な要素だと思います。

現場でともに汗を流す農家や農業普及員、専門性を持ち寄って課題解決に取り組むパートナー、そして活動を支えるドナーの存在──。多様な関係者との協働によって、SAAの活動は日々深化を続けています。鈴木理事長の言葉から、パートナーシップやSAAが目指す未来について考えます。
― 事業の成功に欠かせないのは、どのようなパートナーシップでしょうか?
事業というのは、自分一人では成しえません。必ず、「良きパートナー」の存在が必要です。これまでのキャリアでも、必ず現地の信頼できるパートナーと手を取り合いながら、多くのプロジェクトを進めてきました。
パートナーが増えれば、事業領域は広がりますが、大切なのは「価値観の共有」があるかどうかです。単に一緒にやるだけではなく、「社会にどう貢献するか」という事業精神を共有できるかが、連携の土台となります。私自身が大切にしている判断軸は、「信用を重んじること」、そして「自利利他公私一如」という精神です。こうした価値観をともにし、社会への貢献を目指せる相手こそ、真のパートナーと言えるでしょう
また、ドナーの存在も非常に大切です。企業における株主のように、SAAの活動を支えてくださる方々に対しては、成果や課題をしっかり説明し、誠実なコミュニケーションを重ねることで、より確かな信頼関係が築かれていくと考えています。
― 「拡大」と「進化」の両輪で、次のフェーズへ
今後の展望としては、「拡大」と「進化」の両立と言えるでしょう。むやみにスケールアップする必要はないと思いますが、SAAの活動をより多くの人に届けていくためには、ある程度の領域拡張も視野に入れてよいのではないかと考えます。
ただし、拡張だけでは、表面的になりかねません。重要なのは、事業そのものの「進化」です。
SAAという組織が、社会において一段上の“フェーズ”に進化していくためにも、両輪のバランスが肝要だと考えます。
― SAAが目指す理想の姿とは?
私たちが目指すべきは「アフリカで最も信頼される農業支援組織」ではないでしょうか。信頼は一日で築けるものではなく、地道な積み重ねと誠実な姿勢があって初めて得られるものです。
そのためには、組織としての活力と革新性が不可欠です。日本とアフリカのスタッフが一体となり、互いに刺激し合いながら前に進む──そうしたアントレプレナーシップあふれる組織こそが、「この団体と一緒にやれば間違いない」と地域の方々に思っていただける存在になるのだと思います。
― SAA職員・パートナーへのメッセージ
SAAの活動を支えてくださっている皆さま──日々、地域の課題に真摯に向き合い、専門性を発揮しながら粘り強く取り組んでくださっている皆さんの姿勢に、深く敬意を抱いています。そして、その熱意と誠実な努力こそが、SAAがアフリカの地で信頼され、成果を上げてこられた理由であると感じています。
これからの時代、農業や農村開発を取り巻く環境はますます多様で複雑になっていきます。その中で、私たちSAAは、柔軟に学び合いながら、課題解決に向けて挑戦し続ける組織でありたいと思います。
「明るく、楽しく、そして結果を出せる」──そんな活気に満ちたチームであり続けることはもちろん、多様なパートナーの皆さまと手を携え、地域に持続可能な変化を届けていけるよう努めてまいります。
今後とも、SAAの歩みに力を貸していただけましたら幸いです。
FIN.
コラム:日常に彩りを添える時間♪♪♪
退職後のこの2年間は、特にゴルフに打ち込んできました。練習も含めると、ほぼ毎日ゴルフ漬けの日々だったと思います。身体を動かすことが昔から好きで、年齢を重ねて自然とゴルフが中心になってきました。妻と一緒に旅行も兼ねて楽しんでいます。
クラシック音楽も良く聴いています。毎朝の習慣として聴いており、ゴルフへ向かう車内や読書中にも欠かせません。交響曲、弦楽四重奏、ピアノ協奏曲が好きで、コンサートにも足を運んでいます。
【前編】SAA新理事長 鈴木周一氏 インタビュー:国際ビジネスの現場で培った40年と、今につながる“利他の精神”
【中編】SAA新理事長 鈴木周一氏 インタビュー:国際ビジネスの第一線からササカワ・アフリカ財団(SAA)へ
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