SAA Alumni Interview #2(前半) 「現場に立ち、共に変わる―田才諒哉さんが歩んだ国際協力のかたち」―“ゼロから現場と向き合った2年間”

インタビュー
2026年4月14日
ラオスのコーヒー産地にて
ラオスのコーヒー産地にて

JICA海外協力隊、社会課題解決のためのクラウドファンディング企業READYFOR、ササカワ・アフリカ財団(SAA)、そして国連世界食糧計画(WFP)。

田才諒哉さんは、官民や国際機関といった枠組みを軽やかに飛び越え、国際協力のさまざまな現場で経験を重ねてきました。現在は民間企業のコーヒー事業部に所属し、コーヒーを通じて世界の生産者と日本をつなぐ仕事に携わっています。

所属する組織や立場が変わっても、一貫しているのは「現場の人とともに変化をつくる」という姿勢。

今回のインタビューでは、SAAで過ごしたSAA東京本部・事業課の立ち上げ期を支えた田才さんの2年間を深掘りします。変革期における現場との向き合い方や、その後の多彩なキャリアにつながる経験について、国際協力のリアルな手触りとキャリアの可能性を伺いました。


| 偶然から始まった国際協力の道

SAA: 国際協力の道を志すきっかけを教えてください。

田才: 大学生の時に、国際協力のゼミに入ったのがきっかけです。ゼミを決めるときに、仲の良い友人がそのゼミに入ると言うので、「じゃあ自分も」と入ったのが最初でした。それまでは(国際協力には)全く興味がなくて。海外にも行ったことがなかったです。卒業後は、地元に戻って学校の先生になろうと思ってたくらい。

そのゼミで、児童労働とか、教育を受けられない子どもたちの話を知って、それまでは全く関心を向けてこなかったので、ギャップがすごく大きくて。そこから、だんだん興味を持つようになりました。

先生の存在も大きかったですね。もともとJICA海外協力隊としてパラグアイに派遣されていた方で、国際協力の経験もすごく豊富。その先生の話がとにかく面白くて、在学中にゼミを通じて、フィリピンやパラグアイに滞在したのですが、「こんな世界があるんだ」と衝撃を受けました。このときの体験が原点になっていると思います。

田才諒哉さん インタビューの様子(ササカワ・アフリカ財団 東京本部)田才諒哉さん インタビューの様子(ササカワ・アフリカ財団 東京本部)

| 本部「事業課」立ち上げ期のSAAに入団

SAA: SAAのジュニア・プログラムオフィサーとして2年間従事されていた際の、担当国や業務について聞かせください。

田才: 入団したのは2020年で、ちょうど部署として「事業課」を立ち上げるタイミングでした。当時は、僕ともう1人でそれぞれ2カ国ずつ担当していて、僕はエチオピアとマリを担当していました。 僕たちが入団する前のSAAは、東京本部はかなりコンパクトで、組織全体の運営や理事会対応などを担っており、現地事務所が主導していた事業の中身に直接関わる機会は多くなかったそうです。体制見直し後、事業課が本部に設置され、本部も事業の中身に関わっていくこととなりました。

| 「見える化」と本部改革のはじまり

田才: 僕が入ったばかりの当時は、各国事務所が主体となって事業を進めていて、それぞれがかなり自律的に動いていました。その分、「いつの間にか新規プロジェクトが始まっている」ということもあり、本部として全体像を把握しきれていな場面もありました。現場がそれだけ主体的に動いていたということでもありますが、だからこそ、良い取り組みをきちんと理解・整理して、外に伝えていくことが重要だと感じました。「SAAが何をやっているのか」をきちんと見える形にしていく必要があると考えていました。

まずは、とにかく情報を集めるところから始めました。何をやっているかが体系的にまとまっていなかったので、一つひとつ整理していくところからでした。プロジェクトごとにシートを作って、「今こういうことをやっています」と見える形にしていきました。

| 現場との葛藤と信頼づくり

田才: ただ、やっぱり当時は大変でしたね。例えば、資金申請のプロセスも、それまでは各国がそれぞれのやり方で進めていたのが、「必ず本部の確認と承認を通す」というフローに変わりました。現地事務所からすると、今まで自由に進めていたところに、急に本部から細かいことを聞かれたり、報告を求められたりするようになって、私たちプログラムオフィサーに対しては、正直「何なんだこいつらは」と受け止められていた部分もあったと思います。

その中で、自分自身がずっと考えていたのは、「本当に意味のある事業をやれているか」ということでした。当時は、セレモニー的なイベントや、人材育成事業のOB・OGが集まるネットワーキングの機会などもありました。もちろん、それ自体に意味があることが理解しつつも、「限られたリソースの中で、優先的に投資すべきことは何か」を整理し、必要に応じて方向性を示していく役割もあると感じていました。それを伝えるのは簡単ではありませんが…。

振り返ると、あの時期は、単に仕組みを変えるだけでなく、「現場とどう向き合うか」「どう信頼関係を築くか」を学んだ時間だったと思います。

SAAの出張で訪問したコートジボワールでの調査の様子SAAの出張で訪問したコートジボワールでの調査の様子

| 4カ国を横断して見えたもの

SAA: やりがいを感じた瞬間や、印象に残っているエピソードを聞かせてください。

田才: 事業課の業務は2人で分担していたんですけど、途中で1人が辞めてしまって、結果的に一時期は4カ国を1人で担当することになりました。正直、大変でしたね。

ただ、振り返ってみると、あの経験はすごく良かったなと思っています。もともと、若いうちにいろんな現場を見たいという思いがあったので、4カ国すべてに出張に行かせてもらえたし、それぞれの国で働くスタッフとも関係ができました。今でもたまに、現地のドライバーからSNSでメッセージが来たりして(笑)。そういう繋がりができたのは、すごく嬉しいですね。

それから、4カ国を横断して見られたことも大きかったです。例えば、「エチオピアはこういう強みがあるな」とか、「マリは組織としてこういう課題があるな」とか、国ごとの違いが見えてくるんですよ。大変ではあったんですけど、あの経験があったからこそ今の自分があると思っています。本当にいい経験をさせてもらいました。

| SAAで得たもの、そして次のステージへ

SAA: SAA卒業後に国際機関へ進まれた歩みの中で、次のキャリアの糧となった具体的な経験について聞かせください。

田才: 一番分かりやすいのは、栄養分野の経験だと思います。SAAでは栄養関連のプロジェクトにも関わっていたので、その経験がそのまま活きました。WFPではラオスで栄養担当として働いたんですけど、地域は違ってもやっていることはかなり近くて。いわゆるSAAの「栄養に配慮した農業(Nutrition-sensitive agriculture)」の取り組みを、別の地域で実践しているような感覚でした。

もう一つ大きかったのは、ファンドレイジングの経験ですね。当時、外部資金を獲得する動きがあって、プロポーザルを書いたり申請したりする機会がありました。結果的に取れたものもあれば、取れなかったものもありましたけど、「どうやって資金を取るのか」とか、「ドナーが何を求めているのか」といった点は、かなり学べたと思います。

国際機関でも民間でも、プロジェクトを進めるには資金が必要なので、そういった経験はどこに行っても活きています。今の仕事でも、すごく重要なスキルになっていますね。

| SAAの強みと課題

SAA: SAAならではの強みや価値について、実体験に基づいたご見解をお聞かせください。

田才: 一番の強みは、現場との距離の近さだと思います。いわゆるラストワンマイルまで支援を届けてきた実績があるので、現地での信頼も厚いですし、ネットワークもすごく強い。長い時間をかけて築いてきたものなので、これは本当に大きな強みだと感じています。現地に行くと、「Sasakawa」と言えば通じる場面が多いんです。それだけ、これまで積み重ねてきたものがあるんだなと実感しました。

一方で、課題もあると思っています。これまでSAAは広く多くの農家にリーチしてきたという意味で、「量」の拡大に大きな強みを持ってきたと思いますが、これからはその成果をいかに定着・展開させていくか、すなわち「質」をどう高めていくかが重要になってくるのかと感じています。例えば、支援する農家のデモプロット(実証圃場)で成果が出たとしても、それがどこまで広がっているのか、というのは常に考える必要があります。その場ではうまくいっていても、周りの農家にどれだけ波及しているのか。単に技術を見せるだけではなくて、それがどう広がるのか、どう定着していくかまで含めてみていくことが重要だと思っています。

WFPでラオスの学校給食支援現場を訪問WFPでラオスの学校給食支援現場を訪問

SAA: 今後の国際協力の潮流を踏まえ、SAAが果たすべき役割や期待される新たな展開について聞かせください。

田才: まず、国際的な流れを常に的確に捉え、それを事業に取り入れていくことが重要だと思います。SAAとしても、リジェネラティブ(環境再生型)農業など、こうした潮流を踏まえた取り組みはすでに進めてきていると思いますが、今後はそれらをどのようにスケールさせていくか、また持続的に定着させていくかがより問われてくると感じています。

それに加えて、民間企業や研究機関との連携も、今まで以上に重要になってくると思います。
新しい技術やアプローチを現場に持ち込んで、それを実際に農家の方々に届けていく。そういう橋渡しができるのは、SAAの強みでもあると思っています。

一方で、これまでのやり方を大事にすることもすごく重要だと思っています。長い時間をかけて築いてきた現場との信頼やネットワークは、やっぱり簡単にできるものではないので。だからこそ、その土台を大事にしながら、そこに新しい発想やアプローチをどう組み合わせていくか。そのバランスが、これからの鍵になってくるんじゃないかなと感じています。

SAA: 現在は民間企業でお仕事している田才さんから見て、SAAが民間企業と連携する際に重要だと考えることを教えてください。

一番は、「相手をちゃんと選ぶこと」だと思います。技術が優れているかどうかだけじゃなくて、「自分たちの事業に合っているかどうか」、そこをしっかり見極める必要があります。実際にやってみると、技術としては良くても、現場には合わない、ということも結構あるんですよね。なので、いきなり大きく展開するのではなくて、まずは試してみる。やってみて、うまくいけば広げるし、うまくいかなければ見直す。そういうサイクルを回していくことが大事だと思います。

ササカワ・アフリカ財団のインタビューに答える田才諒哉さん

「現場に立ち、変化をつくる」という姿勢は、組織や立場が変わっても、田才さんの仕事の軸として一貫しています。その眼差しは今、コーヒーの一粒を通じて、アフリカやアジアの農家と日本の日常を地続きにつなげようとしています。

後編では、SAAでの経験を経て、現在の仕事へとどうつながっていったのか、そして民間の立場から国際協力をどう捉えているのかを伺います。

◆インタビュー後編はこちら:SAA Alumni Interview #2 (後半)「現場に立ち、共に変わる―田才諒哉さんが歩んだ国際協力のかたち」―“ビジネスで、国際協力はできるのか”

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