SAA Alumni Interview #2 (後半)「現場に立ち、共に変わる―田才諒哉さんが歩んだ国際協力のかたち」―“ビジネスで、国際協力はできるのか”

インタビュー
2026年4月14日
坂ノ途中の出張で訪問したフィジーのパートナーとコーヒー農園にて
坂ノ途中の出張で訪問したフィジーのパートナーとコーヒー農園にて

「遠くに想いを馳せる、想像力を。」

これは、田才さんが勤務している株式会社坂ノ途中のコーヒー事業部「海ノ向こうコーヒー」が掲げる言葉です。

生産者とバイヤーという関係にとどまらず、「Co-Producer(共同生産者)」として産地と向き合うことを重視する考え方は、ササカワ・アフリカ財団(SAA)が掲げる「農家と共に歩む」というスローガンとも、通じる部分が見えてきます。

後編では、田才さんの言葉を通して、国際協力における “現場との関わり方”を見ていきます。

| 小規模農家とロースターをつなぐ仕組み

SAA: SAAと海ノ向こうコーヒーには、「支援」というよりも農家に伴走する姿勢、しかも短期ではなく持続可能性を重視しているという共通点があると感じています。海ノ向こうコーヒーのコンセプトや仕組みを教えていただけますか。

田才: おっしゃっていただいた点は、かなり近いと思います。僕らは基本的に、小規模農家さんからコーヒーを買うことと、関係性をすごく大事にしています。

コーヒーは、すでに大きな商社がいて、大量に買い付けて、それを大手チェーンに流すというサプライチェーンが出来上がっています。その中で、僕らが同じ土俵で勝負するのは難しい。なので僕らは、大きな商社が扱えないような少量のコーヒー、つまりサプライチェーンから取りこぼされてしまいがちな小規模農家さんからも買い付けて、それを日本の小さなロースターに届ける、というビジネスをしています。

つまり、コーヒーのサプライチェーンの中で、これまでつながっていなかった小規模農家と小規模ロースターをつなぐ役割ですね。そういう意味では、「取り残されがちな人たちに機会をつくる」という点で、SAAとも通じるところがあると思います。

| “生産の波があってもいい”という思想

田才: もう一つ大切にしているのは、「その時だけ買う」という関係をつくらないことです。一般的には、その時々で価格や品質を基準に仕入れ先を選ぶことが多いと思いますが、僕らはパートナーを決め、そこから毎年継続して買うことを前提にしています。各国に信頼できるパートナー企業があり、その関係性の上でコーヒーを仕入れています。SAAでいう現地事務所のような存在ですね。

農業は、天候や病害虫の影響を受けやすく、生産量や品質が毎年安定するとは限りません。それでも、長期的な関係があれば、収量が落ちた年も受け入れながら、次の年に回復すればいいという考え方ができます。常に高品質・大量生産を求められる関係ではなく、変動を前提とした関係性を築くことが、結果として持続可能性につながると考えています。

そのために、品質向上のトレーニングを行ったり、現地を訪問したり、必要に応じて国連機関と連携したプロジェクトや機材支援を行うこともあります。

田才諒哉さん インタビューの様子(ササカワ・アフリカ財団 東京本部)

SAA: 企業とNGOの中間のような立ち位置にも感じます。

田才: 「生産の波があってもいい」、という考え方は、坂ノ途中全体で共有されています。実際、僕らはJ-Startup Impactとして、経済産業省にも選定されていて、ビジネスとして利益を出すことと、社会的インパクトを出すことの両立を重視している。環境配慮の観点も含めて、社会課題の改善につながる効果を丁寧に可視化しながら、同時に事業として持続可能な形にしていく。非常に難しい取り組みではありますが、その分チャレンジングで面白いですね。

| パブリックからプライベートへ―橋渡しの役割

SAA: ビジネスとしては、どうしても優良な農家を選ぶ必要もありますよね。その中で、全体を底上げするアプローチとどう両立しているのでしょうか。

田才: そこはすごく重要なポイントです。ビジネス単体で取り組む場合、どうしても一定の品質が確保されている農家が中心になりやすい側面があります。でも、まだ品質も生産量も十分でない農家も支援したいとなると、ビジネスだけでは難しい。そこで、SAAのようなNGOや、国際機関、政府と組むことが重要になります。

例えば、公共資金を使ったプロジェクトとして支援を行い、坂ノ途中は専門家として技術指導に入る。数年かけて品質を上げて、その後はビジネスとして買い取る、という流れです。ラオスでは国連機関と、太平洋地域ではJICAの資金を活用して、2〜3年かけて品質を向上させ、その後に買い取る仕組みをつくっています。こうした「パブリックからプライベートへの橋渡し」は、とても重要だと思っています。

単体のビジネスでは入れないところにも、公共資金が入ることで関われるようになる。そういう形で連携していくのが、これからのやり方だと思っています。

| NGOと民間の役割分担

SAA: NGOと民間が役割分担しながら繋がることで、より大きなインパクトが出せるということですね。

そうですね。例えば女性農家の支援などは、NGOと組まないと難しい領域です。ルワンダでは、女性農家を対象にしたプロジェクトをNGOと一緒に進めています。NGOが金融リテラシーや組織づくりを担い、僕らは栽培技術の指導と買い取りを担当する。そうすることで、収入が女性自身にしっかり届く仕組みができる。こうした分担はすごく重要だと感じています。

SAA: 現地の農家さんとの関係づくりについて、意識していることはありますか。

やっぱり「現地に行くこと」ですね。オンラインも便利ですが、実際に会うことに勝るものはないと思っています。一緒に農園を回って、車で移動して、ご飯を食べて、そういう時間の中で関係性が深まる。それが結果的に、事業のスムーズさにもつながります。僕自身も、できるだけ現地に行くようにしていて、今も毎月2カ国くらいは訪問しています。

| ビジネスとして社会的価値を生み出す

SAA: これから国際協力の道を歩もうとしている若い世代へのメッセージはありますか。

僕自身、あまり計画的にキャリアを築いてきたわけではなく、どちらかというと行き当たりばったりでした。コロナで帰国して、たまたま求人を見つけてSAAに入った、という感じです。

でも、今振り返ると、SAAのような組織は、若い人にとってすごくいい入り口だと思います。国際協力の分野は、若手が責任ある仕事を任される機会があまり多くないと思います。その中で、一人で一国を担当するような経験ができるのは、とても貴重です。現地とのやり取りや、プロジェクトのマネジメント、大きな資金を扱う経験など、得られるものは大きい。僕自身も、その経験が視野を広げてくれたと感じています。

僕は、今はコーヒーのビジネスに携わっていますが、目指しているのは単なる商売ではありません。産地やその農家と家族、環境に対して、きちんとソーシャルインパクトを生み出すこと。利益を上げながらも国際協力を実践できるということを、エビデンスをもって示していきたいと思っています。

国際協力は、NGOや国際機関だけのものではありません。ビジネスの現場でも実践できる。その可能性を示しながら、これから国際協力に関わりたい若い世代にとっての一つの選択肢やステップになれる場をつくっていきたい。ビジネスの中でも社会的価値は生み出せる——そのことを体現していけたらと思っています。

SAAビジネスと国際協力。その境界線は、決して固定されたものではありません。立場は変わっても、田才さんは今もSAAが掲げる「農家と共に歩む」という精神を、世界の別の現場で体現し続けています。
田才さんのこれからの実践が、次世代のプレイヤーたちにとっての新しい「国際協力のかたち」になっていくことを期待しています。本日は、ありがとうございました。

左から市川職員、田才さん、菊池課長、睦好事務局長


◆インタビュー前編はこちら:SAA Alumni Interview #2(前半) 「現場に立ち、共に変わる―田才諒哉さんが歩んだ国際協力のかたち」―“ゼロから現場と向き合った2年間”


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第一回目のインタビュー記事はこちら

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