農村の複合的土地利用を活かす:エチオピアのランドスケープ・アプローチと環境再生型農業

エチオピア
2025年4月29日
堤防に飼料作物を取り入れた保水・浸食防止の取り組みを実践するホスト農家
堤防に飼料作物を取り入れた保水・浸食防止の取り組みを実践するホスト農家

エチオピアでは、土壌浸食が土地の劣化を引き起こす主な原因のひとつとなっており、耕作地や放牧地、その他の土地利用に大きな影響を与えています。耕作地、放牧地、住居周辺、森林、小規模な植林地など、異なる土地利用が密接に関係し合う農村部では、こうした土地全体をひとつのつながりのある景観として捉え、包括的に対応する「ランドスケープ・アプローチ」が効果的だとされています。

地域レベルの環境再生型農業(RA)は、土壌の健全性回復、生産性の向上、生物多様性や生態系機能の維持を目的としています。このアプローチは、自然に配慮した方法を取り入れ、地域社会や関係者の関与を促進することで、長期的な農業の持続可能性を目指します。

ササカワ・アフリカ財団(SAA)は、RAの推進機関として、作物栽培における土壌肥沃度の向上、農業生物多様性および生態系の回復力の向上を中心に取り組んできました。現在では、その効果を拡大するため、作物重視の取り組みを超えて、以下の4州6郡において統合的なランドスケープ・アプローチを導入しています。

  • アムハラ州:メケット郡(Meket)、ケウェット郡(Kewet)
  • 中央エチオピア:アンガチャ郡(Angacha)
  • オロミア州:ネゲレアルシ郡(Negele Arsi)、アナソラ郡(Ana Sora)
  • シダマ州:アレタウォンド郡(Aleta Wondo)

地域主導による土地の再生
ササカワ・アフリカ財団(SAA)は、草の根レベルの行政機関と連携しながら、地域住民との対話を重ね、合意形成や当事者意識の醸成、そして共同での行動を促進してきました。こうした住民参加型の取り組みによって、小規模な流域を対象とした土壌および水資源の保全構造物の設計・整備が実現され、現在ではこの活動が他地域へと拡大しています。

主な取り組み内容:

  • 土壌・水資源保全構造物の整備:土や石による土手、段々畑、水路、小規模流域の貯水・排水構造(マイクロベイスン)など
  • アグロフォレストリー(農業と森林の複合経営):飼料作物の栽培、園芸作物の導入、植林活動の推進
  • 住居周辺および耕作地での活動:女性や若者にも取り組みやすい野菜栽培(パーマガーデン)、小規模養鶏、堆肥作り(ミミズ堆肥・液肥など)、改良作物品種へのアクセス促進
  • 総合的土壌肥沃度管理(ISFM):多目的に利用できる樹種の導入による、物理的な土壌・水資源保全技術の普及
ランドスケープレベルでの参加型合同モニタリング視察

成果の拡大
2021年以降、SAAは地域のパートナーと協力し、地域主導の取り組みを着実に拡大・深化させてきました。これまでに以下のような具体的な成果が得られています。

■ 土壌・水資源保全構造の整備

  • 土壌保持用の土手(ソイルバンド):118km
  • 排水・浸透促進のための溝:522本
  • 石積みの土手:2.0km
  • 段々畑の補修・整備:20km
  • 水路整備:100㎥
  • 小規模集水構造(マイクロベイスン):30か所

■ 地域住民の参画と実践

  • 32,927人の地域住民が活動に参加
  • そのうち1,424戸の農家(うち女性723人)が以下の取り組みを実施:
    • パーマガーデン:830か所の家庭で導入
    • 果樹の接ぎ木用苗床:7か所
    • アグロフォレストリー区画の設置:587か所

評価結果と住民の声
最近の評価によると、次のような成果が確認されています。

  • 調査対象となった292世帯のうち、40.1%が土壌・水資源保全構造物を導入
  • 30%がアグロフォレストリーを導入しており、48.3%が境界植樹(敷地や畑の境界への植樹)、42.8%が分散型植樹(敷地内全体への分散的な植樹)

これらの取り組みにより、多くの農家が土壌侵食や地表流出の大幅な減少を実感しています。また、保全構造物の安定性が高まり、水の浸透性や保水力の向上が見られたほか、自家消費や販売に適した野菜へのアクセスも改善されました。加えて、収量性の高い多様な作物の導入が進み、農業収入や食料の安定確保にも良い影響をもたらしています。

こうした成果は、地域レベルでの主体的な取り組みが、持続可能な農業と生態系の回復の両立に貢献していることを示しています。

効果の証明
SAAが実施した2023年の中間評価によると、2021年の基準と比較して、土壌侵食による収量損失は14.5%、洪水による損失は13.1%、そして早期の乾燥による損失は16.6%それぞれ減少しました。

これらの成果は、地域全体を視野に入れた環境再生型農業が、気候変動の影響を受けやすい農地においても、回復力を高め、生産性を維持しつつ、劣化した生態系の修復にもつながっていることを明確に示しています。

SAAとその地域パートナーは、このような包括的アプローチを通じて、エチオピアの農村部における持続可能な農業と安定した生計の基盤づくりに取り組み続けています。

ランドスケープレベルで整備された、縦型トレンチと土壌堤防

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