エチオピア・メケット郡における環境再生型農業(RA)の実践事例:土壌劣化圃場の回復に向けた挑戦

エチオピア
2025年4月29日
タグバ・メスケル農家研修センター(FTC)で開催されたフィールドデイで、作物品種試験圃場を訪れる農家たち
タグバ・メスケル農家研修センター(FTC)で開催されたフィールドデイで、作物品種試験圃場を訪れる農家たち

エチオピアでは、過剰な耕起や連作、有機物の不足など、土壌への負荷が大きい農業慣行が行われてきた結果、耕作地の物理的・化学的・生物的な土壌劣化が進行し、土壌の健全性が損なわれています。それにより、農業生産性の低下が深刻な課題となっています。

タグバ・メスケル農家研修センター(FTC)で開催されたフィールドデイで、作物品種試験圃場を見学する農家たち

その一例が、アムハラ州メケット郡タグバ・メスケル・ケベレ(村)にある農家研修センターの実証圃場です。農業技術を学ぶために設けられた圃場ですが、深刻な土壌劣化により、酸性度の上昇、有機物の枯渇、水分保持力の低下といった問題が進行していました。結果として、収量は低下し、矮小な作物しか育たない状況に陥っていました。地元の農業普及員によると、こうした劣化は、土壌・水資源の保全対策の欠如、穀類の単作、酸性化を招く化成肥料の連用、堆肥や家畜糞尿といった有機肥料の利用が不十分、作物残渣の全量除去など、複合的な慣行が原因でした。

2022年、ササカワ・アフリカ財団(SAA)は現地を訪れ、作物の生育不良や深刻な土壌劣化を確認。実証圃場の土壌肥沃度と生産性の回復を図る緊急対応が必要であると提案しました。これを受けて郡の農業局は、SAAと協力し、「総合的土壌肥沃度管理(ISFM)」を基盤とした環境再生型農業(RA)の手法を導入しました。

2022年、農家研修センター(FTC)のルピナス圃場に立つ普及員たち

2023年の作付けシーズンには、一部の圃場を休耕とし、別の区画では窒素固定能力を持つルピナス(Lupinus albus)を栽培しました。これにより、土壌への生物的な栄養補給を図るとともに、将来的に緑肥として利用するための種子生産も目指しました。続く2024年のシーズンには、より包括的なRAの実践として、最小限の耕起、ルピナスを活用した緑肥化、石灰の施用、豆類を含む作物の多様化、堆肥の投入、そして推奨量に基づく化学肥料の使用といった一連の取り組みを導入しました。主作物の播種に先立ち、ルピナスはおよそ2週間前に鋤き込まれています。これらの介入の結果、2024年の作付けシーズンには、穀物およびバイオマスの収量が大きく改善されました。

2022年時点では、地域品種圃場(Community Variety Plots: CVPs)における収量は総じて低水準にとどまっており、例えば小麦は2,000kg/ha未満、大麦は1,814.2kg/ha、ソラマメは845kg/ha、エンドウ豆は1,149kg/haという結果でした。しかし2024年には、RAの導入により、収量が大きく向上しました。小麦で108.5%、大麦で77.77%、ソラマメで104.14%、エンドウ豆で13.14%の増加が確認されました。休耕の活用、有機肥料と化学肥料の適切な併用といった取り組みが、土壌の肥沃度を回復させ、作物の生産性向上に効果を発揮したことがうかがえます。

これらの成果を共有するために、地元農家を対象に3回の現地圃場見学会を開催しました。参加した農家からは「これまでも土壌・水保全や土壌肥沃度管理などの理論は学んできましたが、SAAは環境再生型農業(RA)によって実際に農地がどのように変わるのかを示してくれました。まさに『百聞は一見に如かず』です」といった声が寄せられました。多くの農家が自分たちの圃場でもRAの導入に強い関心を示す一方で、土地面積の制約から休耕の実施が難しいとの意見もありました。そのため、代替策として緑肥作物であるルピナスの利用に対する期待が高まっています。

地元の普及員たちは、SAAなどのパートナーとの協力を一層強化し、RAの普及拡大に取り組む意向を表明しました。特に、種子などの重要な資材へのアクセス改善や、農家の能力強化の継続が今後の鍵であると強調しています。

タグバ・メスケル・ケベレの事例は、劣化が激しい農地においても、環境再生型農業によって再生が可能であることを示しています。SAAは今後も、農家主導のRAの取り組みを支援し、持続可能な農業生態系の構築、農家の生計向上、そしてエチオピア農業の再生と発展に貢献していきます。

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