【中編】コーヒーハンター José. 川島良彰氏、サステナビリティ・アドバイザー山下加夏氏 ×SAA北中理事長&若手職員

2022年3月23日
株式会社ミカフェートのサステイナブル・マネージメント・アドバイザーを務める山下氏
株式会社ミカフェートのサステイナブル・マネージメント・アドバイザーを務める山下氏

||| コーヒー×SDGs

北中:コーヒー業界は、SDGsに取り組みやすい業界にもかかわらず、取り組んでこなかったというお話がありましたが、現在はどうですか?大手のコーヒー会社はSDGsに取り組んでいるのでしょうか。

川島:残念ながら「SDGsウォッシュ」が目につきます。つまり、取り組んでいる振りをして、上部のことしかしていない。フェアトレードやレインフォレスト・アライアンスの認証コーヒーを売っている程度のことで、SDGsに取り組んでいるかのようにプロパガンダしています。しかし本来でしたら、もっと踏み込んで独自のコンセプトでゴールを設定し、それに取り組むことが重要だと思います。

山下:コーヒー業界に限らず、SDGsウォッシュ社会だなというのがこの本を書くきっかけでもありました。「SDGsに取り組んでいます」というPRは世間にありふれていますが、それをたどっていっても、実際は何もしていない。Business as Usualの状態をそのままを広報しても、SDGsに貢献しているわけではないんですね。でも、CSRに少し取り組む=SDGsだと履き替えてしまい、それを広報に使っている企業が本当に多いんです。広報ありきではなく、例えば、物流がどこからくるか、材料は何か、持続可能な形でやっているかなど全て洗い出し、企業価値自体を考え直さないといけないと思いますね。

ミカフェートはSDGsウォッシュには決してならないように、「企業自体が農園の方の将来のために」存続できるようにしていきたいと思っています。

中山:企業は利益を上げなければいけないので、環境との両立に限界もあるのかと思いますが、最近は、事業活動を通じて社会的な課題を解決しようというCSV (Creating Shared Value=「共通価値の創造」)に取り組む企業が増えてきていて、大変興味深いです。

山下:コーヒー業界は比較的CSVに取り組みやすいと思います。日本は本当に遅れているので、是非取り組みをもっと進めていきたいと思います。

||| コーヒー×気候変動

北中:SAAはアフリカで農業にかかわっていますが、雨期になっても雨が降らないなど厳しい状況が続いています。気候変動の影響はコーヒー農園にも出ていますか?

山下:気候変動の影響は各地で出ていますね。年によって違うので、適応するのが非常に難しい。でも、適応していかないと農園をやっていけないので、どのようにコーヒーを生産していくか常に研究しています。

北中:具体的に現地の方と行っている取り組みはありますか?

川島:エルサルバドルの生産者とやっているのは、土壌の保水性を向上させる取り組みです。コーヒーの木で日陰を作ることで土壌の保水性をよくし、微生物の働きを活性化させ、乾季でもコーヒーの生産性を維持しようという研究です。剪定方法を工夫し、コーヒーの木自体が自分の足元をシェードにするというやり方で、私たちはそれをお手伝いしています。

山下:このプロジェクトは、エルサルバドルのある農園主の方から、自分のやり方の科学的な裏付けを取りたいという希望があり開始しました。彼は非常に研究熱心で色々な農法を試していましたが、科学的なデータを用いて今後の農法に生かしたいという思いがありました。そこで、現地の肥料会社と提携し、土壌サンプルを取り実験区の温度・湿度・養分などのデータを比較するという方法で進めます。

なおかつ、たまたまその農園は、取引農家の中で一番標高が低く、気候変動の影響を最も受けやすい農園でしたので、「今一番支援すべきところ」であると川島さんと合意に至りました。

北中:我々もエチオピアで、気象観測センサーを導入して、同じようなことをやろうとしています。SAAでは、Softbank社のe-kakashi(いいかかし)という10万円弱の農業用IoTソリューションで、端末のセンサーを畑に刺しておけば、研究所にデータが飛んでいくような仕組みです。

山下:こういった取り組みを是非コーヒーを飲む人に知っていただきたい。ミカフェートの特徴がダイレクトトレードです。コーヒー農園で生産されたコーヒーが、最終的に、そのコーヒー農園や品種の名前をもって消費者の手に渡る。ピンク ブルボン(*3)を楽しんでいただくお客様には、是非、気候変動に対する農園の取り組みなども、見ていただきながら飲んでいただきたいですね。1、2年後くらいに詳しいレポートとともに啓発したいと思っています。

株式会社ミカフェート 代表取締役社長のJosé. 川島良彰氏

||| コーヒーで「働きがい」を~障がいをもつ社員が生き生きと働くカフェ~

北中:海外でサステナブルな活動をされている一方で、ミカフェートは、企業の障がい者雇用の支援もされていて、コーヒー業界を超えて先進的な取り組みをされていますが、このようなプロジェクトは、山下さんの発想で始められたのでしょうか。

山下:これは完全に川島さんです。笑

川島:2012年に2つの出来事がありました。一つは、東海地区で最大の特別支援学校(愛媛県安城市)で、校長先生と卒業生の保護者が学校の中にカフェを作ろうとしました。コーヒーの抽出を教えてほしいということで支援校まで行ったのですが、「子どもを納税者にしたい」という保護者の方の思いに感激しましたね。結局のところ、県立の特別支援学校の中にカフェを作るのは、県からの許可が下りずにできなかったのですが、ある企業が支援をして、その近くに知的障がい者の方が働くカフェができました。僕がトレーニングをしてきました。

もう一つは、コロンビアを訪問した際、紹介されて行ったフェダール農園(カウカ県ポパヤン市)です。知的障がい者の方が100名程度、毎日通っていて、就学年齢者は教室で勉強し(初等教育から高等教育まで)、卒業すると職業訓練として、養豚・養鶏・陶芸・紙すきなどの技術を身に付けるのですが、その中にコーヒー栽培がありました。「知的障がい者が作ったから買ってあげよう、ではなく、“コーヒーがおいしい”から買ってもらいたい」という思いを施設スタッフの方はお持ちでしたが、なかなか技術がないということで、僕が技術指導を始めました。

2018年、株式会社ベルシステム24ホールディングス(*4)の当時の柘植社長から、「障がい者を全従業員の2.2%雇用するというのがなかなか難しい。障がい者カフェを開こうとしているので、手伝ってほしい」という依頼を受けました。そこで、無理に障がい者が働くカフェを作るというよりは、社内の従業員向けに、障がい者が本当においしいコーヒーを淹れるカフェを作る案を柘植社長と考え、2019年2月に本社ビルにカフェを開設しました。後任の野田社長もこのプロジェクトを推し進め、現在では各地のコールセンターで徐々に社内カフェがオープンしています。

また、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)(*5)でも、去年10月に社内カフェ「HINARI CAFE」が本格オープンし、障がいのある方々がおいしいコーヒーを淹れて、グループの社員がそれを買って飲むという環境ができました。

サササカワ・アフリカ財団(SAA)の北中理事長

||| 広がれ、障がい者雇用の場~バリスタ・チャンピオンシップ「CHALLENGE COFFEE BARISTA」~

川島:このような取り組みが広がれば素晴らしいと思う一方、企業だけでやっていても認知度がなかなか上がらないので、若い子の中でも認識されてきたバリスタ・チャンピオンシップを障がい者の方々でもやれば良いのではないかと思いました。山下さんにも実行委員会に入ってもらい、準備を進め、去年の5月に開催することができました。国内はもとより海外の方々にも興味を持っていただいて、大成功でした。今年は10月に開催予定ですが、これが国際的に広がれば良いなと思いますね。

北中:去年はどれくらい参加されたんですか。

川島:10チーム。企業も回ってご協力いただきました。会場は、株式会社プリンスホテルにお願いに上がりまして、品川プリンスホテルの大きなバンケットルームを貸してくださることになりました。移動に関しては、日本航空株式会社が各チームの最寄り空港から羽田往復便は無償で乗せていただけることになりました。結局、コロナの影響で関東近郊からの参加ばかりで利用されるチームはありませんでしたが、代わりにたいへん豪華が副賞を数多くご提供いただきました。あと、サントリー食品インターナショナル株式会社が大会の運営資金とお水をご提供くださいましたし、コーヒー器具メーカーの株式会社カリタが、各チーム15万円相当のコーヒー器具一式を10チーム分出してくださり、株式会社ベルシステム24ホールディングスは、運営資金を出してくれました。ミカフェートは、各チームのトレーニング用や大会で使用するコーヒーを提供しました。お陰様で大変よい大会が開催できましたし、今年も、全社引き続きスポンサーになってくださることになっています。

北中:素晴らしいですね。ミカフェートの方がボランティアも兼ねて関わられているんだと思いますが、ホテルや航空会社も巻き込んでされているのは、素晴らしいです。

川島:大手企業が関心を示してくださるのは非常に有難いですが、それだけでは、「大手企業がやっていればいいや」となってしまうと思い、各チームのサポートを一般のコーヒー業界の人や地元のコーヒー屋さんからボランティアを募りました。これが、かなり集まりまして、当日のお手伝いをはじめ、コーヒーに余り詳しくないチームに対してコーヒーの抽出指導をしてくださる方も出てきてくださった。大手企業だけではなく、地元の自家焙煎のコーヒー屋さんにも協力していただけたのは、非常に良かったと思っています。

北中:この輪が広がっていくのが楽しみですね。まだ、他の国ではそういった動きはないんでしょうか。

川島:他の国ではまだそういった動きは聞かないですが、10年後には世界大会を開きたいと思っています!

後編に続く...

*2 株式会社ミカフェート

コーヒーハンター José. 川島良彰が2008年に立ち上げたコーヒー豆の輸入、販売会社。そのミッションは「すべてはコーヒーのために」。 樹の選別から栽培、収穫、精選加工、輸送、保管、焙煎、梱包、抽出に至る全ての工程に独自の品質基準を設け、世界最高品質のコーヒーを追求している。日本企業で初めて「サステナブル・コーヒー・チャレンジ(Sustainable Coffee Challenge:SCC)」に参画。自然環境と人権を守りながらおいしいコーヒー作りに励む生産者が報われるよう、コーヒーの価値を認める市場形成に取り組む。

*3ピンク ブルボン

名前の通りピンク色に熟すコーヒー。湿度の高い日陰で育った場合にのみピンク色に熟す。収穫量が少ないため、商業的にほとんど栽培されてこなかった。2009年、José. 川島氏がエルサルバドルを訪問した際、奇跡的に再開。エルサルバドルの研究熱心な農園主により栽培され、日本に初めて輸入される。

*4 株式会社ベルシステム24ホールディングス

1982年創立。本社:東京都中央区。約40年にわたり、コールセンターアウトソーシングを中心としたCRMソリューションを提供。ミカフェートのプロデュースにより、2019年2月、障がい者が運営するカフェ「プレミアムカフェ」を本社に開設。その後、札幌、沖縄、福岡の拠点でもカフェを開設し、障がい者がやりがいを持って従事できる業務の創出に取り組んでいる。

*5 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC

1972年創立。本社:東京都港区。コンサルテーション・SIからアウトソーシングまで、ITライフサイクルを支えるソリューションを提供。本社オフィス内に、CTCグループの社員が利用できる「HINARI CAFE」を2021年10月にオープン。ミカフェートの監修を受け、障がいのある社員が、一杯一杯丁寧に淹れたハンドドリップコーヒーを提供する。

書籍「コーヒーで読み解くSDGs」(ポプラ社)
【後編】コーヒーハンター José. 川島良彰氏、サステナビリティ・アドバイザー山下加夏氏 ×SAA北中理事長&若手職員

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