【後編】コーヒーハンター José. 川島良彰氏、サステナビリティ・アドバイザー山下加夏氏 ×SAA北中理事長&若手職員

2022年3月24日
株式会社ミカフェート 代表取締役社長のJosé. 川島氏(左)とサステイナブル・マネージメント・アドバイザーの山下氏(右)
株式会社ミカフェート 代表取締役社長のJosé. 川島氏(左)とサステイナブル・マネージメント・アドバイザーの山下氏(右)

第三部では、SAAでジュニア・プログラムオフィサーとして働く田才諒哉と中山翔太が話を伺った。田才は、現在、エチオピアにおけるコーヒー生産農家の支援案件を企画している。自身も大のコーヒー好きでニュージーランドでバリスタの資格を取得し、カフェで働いた経験をもつ。中山は、青年海外協力隊員としてルワンダでコーヒー農家の指導をした経験を持つ。SAAの若手2人が、コーヒー指導の師匠に率直な質問をぶつけてみた。

||| コーヒー農家の支援とは?

田才:今SAAでは、エチオピアのコーヒー農家が生産する作物の多様化支援を計画しています。気候変動や国際価格の変動による打撃を緩和するため、コーヒーにプラスして新しい作物を育てる指導を行うプロジェクトです。多様な作物を育てることで、コーヒー農家世帯の生計が安定するだけでなく、土壌の健全性の向上も期待できます。NGOは利益を上げることが最大の目的でないという点で企業と異なると思いますが、コーヒー農家の方の支援で、NGOだからこそできることがあれば、伺って現地に生かしていきたいと思うのですが。

川島:コーヒー以外にキャッシュクロップを導入し、収入を安定させるという支援ですね。NGOだからというよりも、エチオピアの生産者に「何がおいしいコーヒーか」「何が高く売れるコーヒーか」というのを教えてあげることじゃないですかね。価格の変動を受けるのは、コモディティコーヒーですから、付加価値がついて少しでも高く売れるコーヒーを作ることを教えてあげないといけないと思いますね。

でも、ルワンダの生産者は自分が作ったコーヒーを飲んだことがないんですよ。エチオピアではコーヒーを飲みますが、僕はアディスアベバで一度もおいしいコーヒーを飲んだことはないですよ。笑 おいしいコーヒーを生産者が知らないんです。世界に打って出て、スペシャリティコーヒーマーケットで太刀打ちできるのは、どれほどのコーヒーなのかを教えてあげないといけない。コーヒーのクオリティーに関するプログラムを作ってあげるのが大事じゃないかと思いますね。

田才:コーヒー以外の作物に今まで注目していましたが、コーヒーそのものの価値を上げる活動も合わせてできれば良いと思いました。是非参考にさせていただきたいと思います!

山下:私も12年くらいNGOで働いていましたが、NGOの面白さは自由に動けることだと思うんです。現地のニーズを正確に捉え、そこに住む人の思いを考慮し(ある程度支援が入っているとそれ以上は望まなかったりするので)、色々と情報収集した上で突き詰めて考えるのが重要かと思います。あとは、多様なパートナーシップを作っていくこと。コーヒーのクオリティー・コントロールに関しては、企業側にマンパワーがあるので、そういった人に如何に関わってもらうか。他の作物を一緒にやるのも間違いではないと思いますが、そこに頼り切ってしまうとコーヒー栽培自体も上手くいかなくなるのではないでしょうか。その辺の見極め、プロジェクトの目標をどこに設定するのか、外部の専門家に入ってもらうのがすごく重要かと思いました。

ササカワ・アフリカ財団(SAA)のジュニア・プログラムオフィサー田才(左)と中山(右)

||| 技術普及はマインドの変革

中山: SAAは、アフリカ4か国の小規模農家に対して、現地専門家を通じた技術普及を行っています。村の中心に展示圃場設けて、農家に実演するということをやっていますが、難しさも感じています。川島さんは、ルワンダでも、剪定方法などを現地の方に指導されていましたが、コーヒー栽培の技術普及に関しては、どのような方法を取られていますか?何か工夫があれば教えてください。

川島:技術を教えるのは難しいことではないですが、表面的なことだけ教えても、僕らが帰ったらやっていないというのが当たり前。なので、一番重要なのは、彼らのマインドを変えること。そこが一番難しいのですが、マインドを変えるためには、地元のヒーローを作る、成功例を作ってあげることが大事だと思いますね。その人が教えるようになれば、技術が広まって残ります。ただ、僕らが一週間行って技術を教えてあげても、残らないし、納得しないとやらないです。

あと、成功例は、地元の人の畑で作るのが良いですね。SAAのサイトで上手くいっても、あなたたちはお金があるから、で終わってしまいますが、地元の人の畑で上手くいくと、隣の芝生は青く見えるわけです。僕らは黒子で良いと思います。

山下:川島さんの助言に一つ加えて、適切な知識を与えられる人につなぐことがとても重要かと思います。例えば、組合と上手く働いていない農園があったら、そこだけ取り残されてしまいます。

||| ミカフェートの今後の展開は?

北中:最後に、コーヒーを通じた社会への貢献や今後の新しい取り組みなどがあれば、是非ご披露ください。

山下:いっぱいありすぎて困るくらいです。笑 私がアドバイザーとして入ったのが、2015年でしたが、すでにミカフェートは、現地での技術協力など様々な活動をされていました。ただ、それがどのようにサステナビリティに結びついていくのかが明確ではなかったので、何年かかけて川島さんと整理してきました。

ミカフェートでは、コーヒーを通じて、その国が抱える社会問題を直接解決するプロジェクトが3つあります。ルワンダでの技術支援、タイ・ドイトゥン地区のアヘンからコーヒー栽培への転作支援、そして、今お話ししましたコロンビア・フェダール農園の知的障がい者支援です。

それ以外に、能力開発支援を行いながらダイレクトトレードを行うパートナー農園があります。大農園から一人でやっている山中の小さな農園まで、置かれている状況は様々で、できることも異なります。そこで、認証取得という単一のアプローチではなく、各農園に自分たちが今いるところを理解し、更に何ができるか目標を立ててもらい、そこに対してミカフェートが何かする。“それぞれのサステナビリティに対する貢献”に対して、ミカフェートが協力するのです。ミカフェートでは、独自の「サステイナビリティ・ゴール」を作成しており、農園管理、労働条件、環境の3項目に沿って現状を把握し、3年の改善計画を立て、それを達成できた農園を「ミカフェートパートナーズ」と呼んでいます。

今後、各農園の製品の売り上げの一部でその農園の方が次に達成したい目標を共有し、協力していきたい。これが、来年以降の壮大な計画の一つです。

北中:どんどん進化していくミカフェートが、今後も楽しみです。本日は、ありがとうございました!

Fin.

書籍「コーヒーで読み解くSDGs」(ポプラ社)

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