【第1部】~リジェネラティブ・オーガニックと環境再生型農業を語る 後編~

2023年1月23日

日本でのリジェネラティブ・オーガニック

SAARegenerative Agriculture(環境再生型農業)の先進国であるアメリカを見ると、大学、研究者、農業団体など様々なレベルでコミュニティーが形成されていますが、日本にはそういった研究者や公的機関も少ない。日本で環境再生型農業を推進する難しさはありますか?

木村:これらの取り組みは、本質的には古いものでもあり、概念としては新しいものであるため、私たちも、まずは客観性のある科学的な根拠を重視しています。そのなかで数としてはまだ多くありませんが、ROの目指す方向性やそれを支える専門的な研究を行なっている研究者や団体の方などにヒアリングをさせていただいたり、協同いただく場合もあります。

SAA環境再生型農業に関しては、北米よりも日本の方が気候風土的に適しているのではと感じることもありますが、協同されている農家さんはどのようにお感じでしょうか。

木村:今一緒に協同させていただいている4件の方は、私たちと協同する以前から有機農業に取り組むベテランの農家さんです。RO認証を取得することで、有機農業を超えて、日本の環境再生型の有機農業を牽引していきたい、先進事例になれればというマインドを共有してやっています。みなさんやはり熱意や好奇心とともに、向上心もお持ちの素晴らしい方々なので、志高く先を見据えているからこそ歩むことができていると感じています。

弊社は有機農業に基づくROですが、最近話題に挙がる「環境再生型農業」についてもベースとしては、農地の中だけの農学的管理を考えるのではなく、気候風土や地理的条件などの生態学的なこと、あるいは歴史的な土地の成り立ちなどの多くの背景を紐解いて考慮しないとその地のポテンシャルを最大限活用することはできないだろうと感じています。世界各地で行われているRO農法が、日本の環境に完全にそのまま当てはまる訳ではありませんし、日本の生態系や自然に則したRO農法を考えることが何よりもまず重要であると思います。例えば、日本は草の生育が早く夏の雑草管理はたいへんやっかいですが、それは植物による一次生産力が高いということでもありますし、それに連帯する形で昆虫も多く、害虫や病気も発生しやすいと見なされがちで確かに事実そうだと思うのですが、その自然的特性は必ずしもネガティブな面ばかりではなく、ポジティブに活用できる方法もあるかもしれません。それに、水田でも畑同様に不耕起など耕起を減らすことが普遍的に必ず良いのかなどもよく熟慮する必要があります。私たちは学び続けている最中ということですね。

SAAまさにアフリカの環境再生型農業を進める上で私たちが考えていることと同じですね。現在協同されているのは4件の農家さんということですが、今後、どのような展開をお考えですか?

木村:RO認証を指針としてROや有機農業、生態系やコミュニティを育む農業を実践する方々の裾野を広げる活動を展開していければと考えています。この分野の主役は、やはり菜園者なども含め農業者の方々です。誰もがなにかを悪化させたいがためにやっているわけではないので、なにが難しいのか、なにが移行のための障壁となっているのか、そしてみんなにとって嬉しいことはなにか、そのような共通点を整理しながら、ROを指針として進めたいと思います。

そして、裾野を広げるためには、日本でROの良さや意義、移行の仕方を提示できるような知見や経験の蓄積を行いたい。私たちが協同している4件の農家さんとは、研究者の方に協力いただいて科学的な実証データをとったり、不耕起の畑作に適した農業機械の検討を行ったりもしています。前人未踏の最初の取り組みなので、できることはたくさんあります。

“事例を作り波及させる”がパタゴニア流

SAAROの取り組みにおいて、裾野を広げる活動をされていますが、地域における面的な広がりはありますか?

木村:ある地域で1件の農家さんがRO農法を始めたからといって、すぐに周りに波及するわけではありませんが、点と点がつながって、面的な広がりができたら嬉しいですね。それに、呼び名が異なるだけで、RO農法をすでに実践されている方々も大勢います。農家さんを中心としたコミュニティ、地域や自治体レベルのリアルなネットワークもそうですし、パタゴニアを介したネットワークでも同様だと考えています。

近藤:自分たちのビジネスで成功事例を作り、それを波及(Ripple Effect)させる、それがパタゴニアのやってきたことです。ウォールマートのような巨大企業を巻き込んだ成功事例もあります。例えば、パタゴニア単独で100%オーガニックコットンに転換するよりも、ウォールマートが1%をコットンに転換する方が社会に大きなインパクトを与えることができる。農業についても同様に、他社を巻き込んで大きなインパクトをもたらしていきたいと考えています。

SAA環境再生型農業という名前をつかわずとも同じような農法に注目している人はたくさんいますので、問題意識を持っている者同士、つながれることが大事だと思っています。ウクライナ危機に端を発する肥料価格高騰の問題もあり、アフリカ政府の中でも環境再生型農業の重要性が認識され始めています。

10月に開催されたFAO(国際連合食糧農業機関)のScience & Innovation Forumにおいては、丸一日かけてSoil Health(土壌の健全性)をテーマに議論しました。来年は、AU(アフリカ連合)がFertilizer and Soil Health Summitを開催予定です。多くの人が危機感を持ち始めているタイミングです。

木村:弊社の場合は有機農業を基本とするROですが、環境再生型農業は、日本やアフリカを含む世界全体でさまざまにどんどん進んでいく取り組みだと思います。置かれている自然的、社会的、文化的あるいは歴史的状況の違いを理解し配慮しながら、農業は世界中で営まれていますから、国内外すべてを参考にしながら取り組みが広がっていければと思います。

【第2部】に続く・・・


【第2部】パタゴニア日本支社さまにお聞きしました~食品事業「プロビジョンズ」~
【番外編】パタゴニア日本支社さまにお聞きしました~パタゴニアってどんな会社~
【第1部】パタゴニア日本支社さまにお聞きしました~リジェネラティブ・オーガニックと環境再生型農業を語る 前編~

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